仮想通貨業界では、何年も前から量子コンピュータが新たな脅威として注目を集めている。
量子コンピュータは従来のコンピュータより数千倍高速で、理論上はビットコインのセキュリティ基盤であるSHA256暗号化アルゴリズムを破ることができるとされる。
SHA256はビットコインの取引検証とマイニングに使われる暗号学的ハッシュ関数で、これが破られればネットワーク全体の信頼性が崩壊しかねない。
しかし、初期ビットコイン投資家チャーリー・シュレムは12月上旬のMoneyShowで「量子コンピュータと仮想通貨は補完的な技術だ」と述べ、量子が仮想通貨を進化させる触媒になると主張した。
ストラテジーのマイケル・セイラー会長も12月16日、「量子コンピュータはビットコインを破壊せず、むしろ強化する」と表明。ネットワークアップグレードにより、セキュリティが向上し供給量が減少すると予測している。
研究者は量子コンピュータ専用のブロックチェーンも構築している。「プルーフ・オブ・クォンタム・ワーク」を導入したこのシステムは、従来のビットコインマイニングより高いエネルギー効率を実現する。
量子技術はトランザクション処理も大幅に高速化できる。量子コンピュータがコンセンサスアルゴリズムを最適化すれば、ビットコインは分散化を保ちつつ毎秒数千のトランザクションを処理可能になる。
量子鍵配送は理論的に破れない暗号化を提供し、量子乱数生成器は予測不可能な秘密鍵を作成する。これらはビットコインのセキュリティを強化する。
専門家は、量子コンピュータが仮想通貨標準に脅威となるまで5~15年の猶予があると推定しており、準備時間は十分だとしている。
チャーリー・シュレムは「量子コンピュータは新しい種類のコンピュータに変わりつつある」と述べ、その可能性に期待を示した。量子と仮想通貨の関係は敵対的ではなく、より安全で効率的なエコシステムを生む共生関係になると専門家は見ている。
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一方で、量子コンピュータに対する懸念も根強い。
ビットコイン開発者のジェイムソン・ロップは12月21日、「プロトコル変更と資金移行には5年から10年かかる」と指摘。アナリストのチャールズ・エドワーズは「2028年までに量子耐性の修正が実装されなければ、ビットコイン価格は5万ドルを下回る可能性がある」と警告した。
エヌビディアの量子パートナー企業アリス・アンド・ボブのCEO、テオー・ペロナン氏は11月、「2030年以降、数年で量子コンピュータがビットコインのセキュリティを破る力を持つ可能性がある」と述べている。
こうした懸念を受け、ブロックチェーン業界は既に具体的な行動に移っている。
ソラナ財団は12月中旬、プロジェクト・イレブンと提携し、テストネット上でポスト量子デジタルシグネチャーを展開。技術担当副社長マット・ソーグ氏は「今後数十年にわたってソラナの安全を確保する」と述べた。
ソラナは今年1月、量子耐性ボールト「ソラナ・ウィンターニッツ・ボールト」(Solana Winternitz Vault)も導入。ハッシュベースのシグネチャーシステムでトランザクションごとに新しい暗号鍵を生成する。
イーサリアムも長期技術ロードマップに量子耐性ソリューションを含めており、ヴィタリック・ブテリン氏は2028年までに楕円曲線暗号が危険にさらされる可能性を警告している。
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量子コンピュータの脅威は、ビットコインに限定されない。むしろ、従来の金融システムの方がより深刻な影響を受ける可能性がある。
量子コンピュータが実用化されれば、RSA暗号やディフィー・ヘルマン鍵交換など、銀行取引やオンラインバンキングを保護する暗号化標準が破られる恐れがある。これらはビットコインのSHA256よりも量子攻撃に脆弱とされている。
米国金融サービス情報共有分析センターは、多くの組織が量子耐性プロジェクトに十分なリソースを割り当てていないと指摘。移行準備の遅延が将来のリスクを高めると述べている。
さらに深刻なのは「ハーベスト・ナウ・デクリプト・レイター」(Harvest now, decrypt later)戦略だ。敵対的な勢力が現在暗号化されたデータを収集し、将来の量子コンピュータで解読する手法で、政府の機密通信や企業の知的財産などが標的となる。
国際決済銀行(BIS)の報告によれば、量子コンピュータが現行の暗号化標準を破った場合、5年以内にGDPの約0.1%、15~20年以内にはGDPの1%を超える経済損失が発生する可能性があると推定されている。
一方、量子技術は脅威であると同時に、セキュリティ強化の機会でもある。量子鍵配送は理論的に破ることのできない暗号化を提供し、HSBCは既に量子鍵配送で保護された外国為替取引に成功している。イタリアの銀行インテーザ・サンパオロやスペインのバンコ・サバデルも量子機械学習を活用した詐欺検出に取り組んでいる。
量子技術をいかに「武器」ではなく「盾」として活用するか。金融業界全体での協議と準備が急務となっている。
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