北朝鮮の国家支援ハッカー集団「ラザルス・グループ」に関連するとみられるウォレットが、分散型デリバティブ取引プラットフォーム「ハイパーリキッド(Hyperliquid)」を経由し、3,000万ドル(約48億円、1ドル=160円換算)を超える資金を移動させていたことが分かった。ブロックチェーン分析企業アーカム(Arkham)のアナリスト、エメット・ガリック(Emmett Gallic)氏が8月31日、X上で報告した。
ガリック氏によると、資金はハイパーリキッドにビットコイン( BTC )として入金された後、イーサリアム( ETH )やソラナ( SOL )に変換。その後、イーサリアム、ソラナ、トロンの各ネットワークへブリッジされ、最終的にはKuCoin、LBank、クラーケンといった取引所や、複数の未特定のトロンベースのサービスへ送金されたという。この活動は8月31日時点でも確認されている。
なお、最終的な受取先となった取引所の口座所有者や、各取引所が資金の出所を把握していたかどうかは、現時点では確認されていない。
ハイパーリキッドへ流入した資金のうち約3,000万ドルは、アーカムが既に「ラザルス」として識別しているアドレスに直接紐付けられている。これらのアドレスは、著名オンチェーンアナリストのZachXBT氏が2024年、約6,180万ドル規模のハッキング被害に関連するものとして特定していた。
また、約500万ドルの取引高を占める別のウォレット群についても、資金の休眠期間やアドレスタイプ、取引相手の挙動といった特徴が、特定済みのラザルス関連ウォレットと類似しているという。
ラザルスは北朝鮮国家主導の高度なハッカー集団で、米財務省外国資産管理局(OFAC)の制裁対象となっている。ブロックチェーンセキュリティ企業のサーティック(CertiK)が2026年5月に公開したレポートによると、2016年から2026年初頭までに、北朝鮮系のハッカー集団は263件の攻撃を通じて推定67億5,000万ドルを窃取した。
2026年初以降の被害総額約11億ドルのうち、約56%にあたる6億2,000万ドル超が北朝鮮関連と分析されている。
今回の資金移動が注目されるもう一つの理由は、そのタイミングにある。
トランプ政権は、国外へ流出していた仮想通貨取引を自国の規制下へと回帰させる「オンショア化」を進めており、ハイパーリキッドのような大規模なオンチェーン市場をどのように米国の法規制の枠内に組み込むかが焦点となっている。
トランプ大統領は8月19日にホワイトハウスで開催されたイベントで、商品先物取引委員会(CFTC)のマイク・セリグ委員長が、ハイパーリキッドを「完全にコンプライアンスに適合した合法的」な形で米国に導入する道筋を検討していると発言した。
クラーケンの親会社ペイワードは、同社傘下でCFTCの規制下にあるデリバティブ取引所ビットノミアルを通じ、ハイパーリキッドの無期限先物(パーペチュアル)の一部を米国の登録ユーザーに提供する構想について、ハイパーリキッド・ラボと協議していると報じられている。
ペイワードはこの構想をCFTCに提示したとされるが、現時点で規制承認は得られていない。
ハイパーリキッドは、中央運営者を置かず、独自のレイヤー1ブロックチェーン上で高速なオーダーブックを運用する分散型取引プラットフォーム。無期限先物取引を中心に急成長し、日次取引高は40億ドルを超えるなど、分散型無期限先物市場で高いシェアを占めている。
データプラットフォームDeFiLlamaによると、ハイパーリキッドにおける無期限先物の累計取引高は5兆ドルを突破し、現在の未決済建玉(OI)は約133億ドルに上る。直近30日間だけでも約2,050億ドルの取引高を記録しており、急速な成長を背景に、ウォール街や米国の規制当局からも注目を集めている。
一方で、そのパーミッションレスな構造は、規制上の深刻な懸念も招いている。
従来型の中央集権取引所(CEX)のような口座開設手続きやKYC(本人確認)は不要で、ユーザーは自身のウォレットを接続するだけで即座に取引を開始できる。こうした開かれた設計は、利便性をもたらす反面、OFACなどの制裁対象指定を受けた不正資金が容易に流入し、マネーロンダリングに悪用されうるリスクを伴う。
今回のラザルス関連ウォレットによる資金移動は、分散型市場が抱えるこうした構造的な課題を改めて示す事例となった。


