ワールドカップの決勝トーナメント、日本は敗退してしまいましたがとても良い戦いを見せてくれました。どの国にも歴史があり、スター選手がいて、戦術があり、勝ち上がってきた理由があります。試合を見るうえでは、当然ながらピッチの上の強さが一番気になります。
ただ、私は暗号資産取引所の尾藤トレ夫です。せっかく決勝トーナメントにさまざまな国が集まっているなら、サッカーとは少し違う目線でも見てみたくなります。
暗号資産やデジタル金融の取り組みという目線で考えてみます。
今回は、決勝トーナメント参加国の中から、暗号資産、ステーブルコイン、CBDCやデジタル通貨、トークン化、規制整備、実際の利用状況などをざっくり総合して、トレ夫的に「デジタル金融先進国ベスト4」を選んでみます。
もちろん、これはサッカーのFIFAランキングのように明確な勝ち負けがあるものではありません。暗号資産の取引量が多い国、制度整備が進んでいる国、金融機関が積極的な国、日常決済にデジタルインフラが入り込んでいる国。それぞれ強さの種類が違います。
なので今回は、単に「暗号資産が盛り上がっている国」ではなく、デジタルなお金を社会や金融の仕組みの中にどう組み込もうとしているか、という目線で見ていきます。
伝統金融がオンチェーンに踏み込む国、フランス
フランスを暗号資産の国として真っ先に思い浮かべる人は、そこまで多くないかもしれません。暗号資産といえばアメリカ、スイス、シンガポール、UAEのような国や地域が出てきやすく、フランスは少し地味に見えるかもしれません。
ただ、フランスの面白さは、伝統的な金融機関がブロックチェーンやステーブルコインの領域に踏み込んでいるところにあります。
特に象徴的なのが、フランス大手銀行ソシエテ・ジェネラル系のSG-FORGEです。SG-FORGEはユーロ建てステーブルコインを出したあと、ドル建てステーブルコインにも取り組んでいます。暗号資産スタートアップだけではなく、既存の大手銀行がステーブルコインを発行し、決済、外国為替、担保管理などに使おうとしている点は、かなり重要です。
フランス単体というより、EU全体ではMiCAという暗号資産規制の共通ルールも整備されています。もちろん、規制があるからすぐ市場が伸びるわけではありません。むしろルールが厳しくなれば、事業者にとっては負担も増えます。それでも、暗号資産やステーブルコインを金融システムの外側に置きっぱなしにするのではなく、制度の中に入れて扱おうとしている点で、フランスは見逃せない国です。
サッカーでいえば、派手な個人技で一気に抜き去るタイプというより、ボールを保持しながら、じわじわ陣形を押し上げてくるタイプかもしれません。気づいたら銀行が前線まで上がってきている。フランスのデジタル金融には、そういう強さがあります。
市場の大きさで世界の基準を動かす国、アメリカ
アメリカは、暗号資産の取り組みが進んでいるというより、もはや市場そのものが大きすぎて、無視できない国です。ビットコインETF、暗号資産取引所、ステーブルコイン発行体、VC、開発者、上場企業、規制当局、政治家。暗号資産をめぐるあらゆるプレイヤーが集まり、ぶつかり合いながら、世界の流れを大きく動かしています。
特に大きいのは、やはりドルの存在です。現在のステーブルコイン市場は、米ドル連動型が圧倒的な存在感を持っています。USDTやUSDCのようなドル連動型ステーブルコインは、暗号資産取引だけでなく、国境を越える価値移転や新興国でのドルアクセスとも関係しています。つまりアメリカは、自国の通貨であるドルの強さが、そのままブロックチェーン上のお金の流れにも影響している国です。
さらに米国では、支払い用ステーブルコインに関する連邦規制の枠組みも整備されました。準備資産、開示、発行体の要件などが制度として扱われるようになったことで、ステーブルコインはより金融インフラに近いものとして見られる段階に入っています。
もちろんアメリカは、規制の方向性が常に安定している国ではありません。
SEC、CFTC、議会、州ごとのルール、政権の方針などが絡み合い、暗号資産事業者にとってはかなり複雑な国でもあります。ただ、それでもアメリカを外すことはできません。市場が大きく、資金があり、企業があり、ドルがあり、制度が動き始めている。これは強いです。
サッカーでたとえるなら、まだ荒削りな部分はあるけれど、選手層と資金力とスタジアムの規模で押し切ってくる国です。完成度だけで見れば他にも強い国はありますが、試合の流れを変える力はやはりアメリカにあります。
Pix、ステーブルコイン、Drexが並ぶ実用の国、ブラジル
前回の記事でも取り上げたように、ブラジルはサッカー王国であると同時に、かなり面白いデジタル決済大国です。その中心にあるのが、ブラジル中央銀行が主導して作った即時決済システムPixです。Pixは個人送金、店舗決済、オンライン決済、公共料金、企業間の支払いなどに広く使われ、ブラジルの日常決済インフラとして定着しています。
ただ、ブラジルの面白さはPixだけではありません。暗号資産の世界では、ステーブルコインの存在感が非常に大きいとされています。ブラジル中央銀行の関係者は、ブラジル国内の暗号資産フローの約90%がステーブルコインに関連していると説明しています。これは、ブラジルで暗号資産が単なる投資対象としてだけではなく、ドルへのアクセスや国境を越えるお金の流れとも深く関係していることを示しているように見えます。
さらにブラジルでは、Drexという取り組みも進んでいます。Drexは、一般の人がコンビニで使う新しい電子マネーというより、トークン化された銀行預金、スマートコントラクト、担保付きの信用取引、金融機関間の決済などを支えるデジタル金融インフラに近い構想です。
つまりブラジルでは、日常の支払いにはPixがあり、暗号資産の世界ではステーブルコインが存在感を持ち、金融インフラの高度化ではDrexが試されています。同じデジタルなお金に見えても、それぞれの役割が分かれているところが面白いです。
ブラジルは、理論だけで未来を語っている国というより、実際の生活や資金移動の中でデジタルなお金が広がっている国です。サッカーでいえば、華やかな個人技だけではなく、生活の中にリズムが染み込んでいるような強さがあります。
暗号資産を金融インフラとして受け入れてきた国、スイス
暗号資産の「進んでいる国」を考えるとき、スイスはやはり外しにくい存在です。スイスにはCrypto Valleyとして知られるツーク周辺のエコシステムがあり、ブロックチェーン関連企業や財団が集まってきた歴史があります。ただ、スイスの強さは、単に有名プロジェクトが集まったことだけではありません。
本当に重要なのは、制度と金融インフラの整備です。
スイスではDLT法によって、トークン化された資産やDLT取引施設に関する法的な枠組みが整えられています。ブロックチェーン上で証券を発行したり、取引したりするための制度が作られているという点で、暗号資産を一時的なブームではなく、金融市場の仕組みとして扱おうとしている国だと言えます。
これは、ビットコインを買える人が多いとか、暗号資産アプリが流行っているという話とは少し違います。スイスの強さは、資産をトークン化する、取引の法的確実性を高める、金融機関が新しい仕組みを使いやすくする、といった土台の部分にあります。
暗号資産やブロックチェーンは、派手な価格変動や新しい銘柄ばかりが注目されがちです。しかし、金融として本当に社会に入り込むには、法律、会計、カストディ、取引所、監督、投資家保護といった地味な部分が必要になります。スイスは、その地味だけど重要な部分をかなり早い段階から整えてきた国です。
サッカーでいえば、スター選手の派手さよりも、ピッチの芝、審判、戦術ボード、選手の配置まできっちり整えてくる国です。
国ごとの“強さ”はかなり違う
こうして見ると、同じ暗号資産やデジタル金融といっても、国ごとにかなり性格が違います。
フランスは、伝統金融がオンチェーンに入ってくる国です。アメリカは、市場の大きさとドルの影響力で世界の基準を動かす国です。ブラジルは、Pix、ステーブルコイン、Drexがそれぞれ現実のお金の流れに関わっている実用型の国です。そしてスイスは、暗号資産やトークン化を金融インフラとして受け入れるための制度を整えてきた国です。
ちなみに日本も、暗号資産交換業の制度やステーブルコインに関するルール整備という意味では、かなり進んでいる国だと思います。ただ、今回は日本代表を応援する立場から、あえて日本をランキング外に置き、対戦相手や決勝トーナメント参加国を外側から眺める形にしました。
サッカーの強さと、暗号資産やデジタル金融の進み方は必ずしも一致しません。けれど、ワールドカップ参加国を金融の目線で見てみると、それぞれの国がまったく違う形でデジタルなお金と向き合っていることが分かります。
決勝トーナメントは、ピッチの上では一発勝負です。
ただ、ピッチの外では、各国の金融インフラや規制、企業の動きが、もっと長い時間をかけて勝負をしています。サッカーをきっかけに、そうした国ごとの違いにも少し目を向けてみると、ワールドカップの楽しみ方が少しだけ広がるかもしれません。
ただ、こう見てみるとサッカーでも強い国が入ってきていますね。あくまでもこれは私個人の目線となりますので、ぜひ皆様もサッカーをきっかけに他国事情を調べてみて、自分なりのランキングを考えてみても面白いかもしれません。
※本記事は、サッカー日本代表の対戦相手国をきっかけに、各国の金融・暗号資産事情を紹介する編集記事です。特定の大会、団体、チームとの提携・協賛・公式企画を示すものではありません。
参考文献
本記事の作成にあたって、以下の公開情報を参照しました。
・Swiss State Secretariat for International Finance「DLT / blockchain / tokenisation」
https://www.sif.admin.ch/en/dlt-blockchain-en
・White House「Fact Sheet: President Donald J. Trump Signs GENIUS Act into Law」
https://www.whitehouse.gov/fact-sheets/2025/07/fact-sheet-president-donald-j-trump-signs-genius-act-into-law/
・Reuters「Brazil's Galipolo sees surge in crypto use, says 90% of flow tied to stablecoins」
https://www.reuters.com/technology/brazils-galipolo-sees-surge-crypto-use-says-90-flow-tied-stablecoins-2025-02-06/
・Reuters「Societe Generale to launch dollar-pegged stablecoin」
https://www.reuters.com/business/finance/societe-generale-launch-dollar-pegged-stablecoin-2025-06-10/
・ESMA「Markets in Crypto-Assets Regulation (MiCA)」
https://www.esma.europa.eu/esmas-activities/digital-finance-and-innovation/markets-crypto-assets-regulation-mica
※各情報は記事執筆時点の公開情報をもとに確認しています。