ステーブルコイン決済インフラ構築の整備が加速している。
ステーブルコイン発行大手サークル(Circle)はステーブルコイン決済に特化したブロックチェーン「Arc」を開発中で、クレジットカード大手Visaなど100社以上がテストネットに参加している。
決済大手ストライプ(Stripe)も暗号資産(仮想通貨)ベンチャー企業Paradigmと共同で、ステーブルコイン決済専用のブロックチェーン「Tempo」を開発している。VisaやShopifyなどが設計パートナーとして参加し、マスターカードやUBSなどの金融機関・決済企業もテストネットのパートナーとして加わっている。
日本でも、ソニー銀行と円建てステーブルコインを発行するJPYC株式会社が戦略的業務提携を発表。リアルタイム口座振替を活用したJPYCの即時購入機能の提供を検討。LINE NEXTは、LINEアプリからアクセス可能なWeb3ウォレットサービス「Unify」へのJPYC採用を発表した。
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一方、世界の決済量に占めるステーブルコイン利用の割合は、依然としてごくわずかだ。
今年の世界のeコマース市場が6兆8,800億ドルの規模に達すると予想される中、戦略コンサルティング会社マッキンゼーは、ステーブルコインの実質決済額を年間約3,900億ドルと推定しており、そのうちB2B向けは年間約2,260億ドルに上るとしている。
個人利用も限定的で、欧州中央銀行(ECB)はステーブルコイン取引量の約0.5%が個人向けの小口送金だと推定。さらに、Stablecoin Utility Reportによると、日常的な商取引においても、商品・サービスの決済にステーブルコインを使っているのは約6%にとどまる。
こうした普及の遅れを背景に、ステーブルコイン業界では、インフラ構築の正当性を裏付ける有力なユースケースとして、ステーブルコインを活用したAIエージェント決済に注目が集まっている。
AIエージェント決済とは、人間を介さずソフトウェア同士が自動的に行う支払いを指す。AIがデータや計算資源、APIなどを利用する際に、少額の決済を高頻度で行うことが想定されている。
従来のクレジットカードや銀行送金では、こうしたマイクロペイメントを大量に処理することはコストや処理速度の面で難しいとされる。このため、低コストかつ即時決済が可能なステーブルコインが、AI同士の取引を支える決済手段として期待を集めている。
サークルやストライプなどの企業は、この分野に巨額の投資を進めており、AIとブロックチェーンを組み合わせた新たなデジタル経済の基盤づくりを加速させている。
サークルのジェレミー・アレールCEOは、1月にスイス・ダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会で、今後5年間で数十億のAIエージェントが決済システムを必要とするようになり、ステーブルコインが唯一の現実的な選択肢になるとの予測を発表した。
2月25日の決算発表でアレール氏は、AI時代のマシン間(M2M)取引ではステーブルコインが主要通貨になる可能性が高いと指摘。AIとステーブルコイン、ブロックチェーンの融合が進む中で、新たなインターネット金融システムを構築中の自社がその中心的役割を担うことを期待していると述べた。
戦略コンサルティング会社マッキンゼーの調査によると、2030年までに米国のB2C(企業対消費者)小売市場だけで、AIエージェント決済による収益は最大1兆ドルに達する可能性があるという。
しかし、アレール氏は消費者向けのAI決済でなく、「AI同士が互いにやり取りして利用するあらゆるデータやサービスこそ、真のビジネスチャンスだ」と見ている。例えば、法律関連のスキルを持つエージェントが、企業に代わって外部エージェントからの依頼を処理するようなケースだ。
同社は先月、OpenMindのロボット犬「Bits」を使った自律決済のデモ動画を投稿。ロボット犬が人間の介入なしに充電ステーションの利用料をUSDCで支払い、自ら充電を完了する様子を公開した。決済はオンチェーンで行われ、機械間の少額決済が実証された。
サークルとOpenMindは、USDCを基盤とするマシン間決済標準の構築に向けた戦略的提携を結び、AIシステムやデジタルインフラ全体に広がる自律的なマシン間取引を支えるため、USDCを活用したマイクロペイメント標準の開発を進めている。
決済大手のVisaは、昨年末に発表した2026年の決済予測で、AIエージェント型コマースとステーブルコインが主流になるとの見通しを示した。
トップブランドがAIを活用したショッピング体験の主流化に投資する中、Visaは次のステップとして、2026年にAIエージェント決済が本格化すると予想。 エコシステムパートナーと協力してインフラ整備を進めており、「今日のイノベーションは、やがて明日の当たり前のビジネスとなるだろう。」と述べた。
また、マスターカードのマイケル・ミーバッハCEOは、AIエージェント型コマースとステーブルコインを新たな成長の鍵として挙げる。同社は、オープンAIなどの主要企業とエージェント型コマースのプロトコル開発に取り組んでいる。さらに、同社の決済ネットワーク上で、 AIエージェントが安全に取引を仲介できる「Mastercard Agent Pay」も計画している。
一方、VisaはAI技術の進歩は新たなリスクも生むと指摘する。従来はトランザクション単位で発生していた詐欺も、現在では犯罪者がAIを悪用し、個人の全IDを狙った大規模詐欺に変化している。ディープフェイクやエージェント詐欺、合成IDを用いることで、IDを丸ごと乗っ取り、被害者の全取引が支配される可能性があるという。
2026年には、このような手口がさらに高度化・増加すると予想されることから、業界全体でID詐欺に立ち向かい、共同でリスク管理の能力や技術開発に注力していくと強調した。

