「ステーブルコインが話題になっているけれど、日本国内にいる自分には関係ない」―今年に入り、こうした認識は変わりつつあります。
ステーブルコインとは、取引価格が安定(ステーブル)するように設計された、ブロックチェーン上で取引されるデジタル通貨のことです。
ゆうちょ銀行による「DCJPY」というトークン化預金構想(2026年開始予定)や、三菱UFJ銀行などメガバンク3行によるステーブルコインの共同発行の実証実験など、国内の民間企業の動きもメディアに取り上げられています。
今まさに、暗号資産と伝統的金融との境界線は薄れつつあり、ステーブルコインはフィンテック(次世代金融サービス)の一つとして、金融市場の最前線に定着しようとしています。
特に注目すべきは、ステーブルコイン産業でトップレベルのシェアを誇り、業界のベンチマークとされる米国の上場企業Circleが手掛けるFX(外国為替)プロジェクト 「StableFX」 です。
この記事では、StableFXがステーブルコインで何を実現しようとしているのかをご紹介します。
StableFXは、ステーブルコインを用いて外国為替取引を行う、機関投資家向けのオンチェーンFXサービスです。
FX(外国為替)市場は、世界中の通貨が取引される、世界最大かつ最も流動性の高い金融市場です。1日あたりの取引高は平均9.6兆ドル(約1,400兆円超)にのぼり、米国株式市場の取引高(約1.7兆ドル)と比べても桁違いの規模であることがわかります(2025年4月時点、 BIS:国際決済銀行のデータ )。
StableFXは、従来の外国為替インフラが抱えている課題に対し、決済・取引の新たな選択肢を提示します。
手がけるのは、ステーブルコイン市場で約3割のシェアを持つ米ドル建てステーブルコイン「USDC」の発行体・Circle社。業界のリーダーが主導するプロジェクトだけに、実現性も期待できます。
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しかも、Circleだけではありません。世界各国のステーブルコイン発行体がパートナーとして参画し、グローバルな体制を整えています。日本円建てステーブルコインとしては、JPYC株式会社が発行する「JPYC」が、Circleの審査プログラム「Circle Partner Stablecoins」に採択されました。
これにより、JPYCは将来的にStableFX上で活用される可能性のある円建てステーブルコインとして位置付けられています。
StableFXの勝算はどこにあるのでしょうか。その鍵は、伝統的金融が抱える構造的な課題にあります。
FX市場は規模が巨大であるがゆえに、いまだ旧態依然としたインフラに頼っている側面があります。バッチ処理、二者間契約、T+1決済(取引日の翌日決済)など、非効率な仕組みが残存しているのです。
StableFXは、こうしたボトルネックを抱えるFX市場に対し、ブロックチェーンならではの利点―「時間や場所に左右されない」「高速な自動処理」―をもたらします。
このように、StableFXは決済リスクの最小化、資本効率の改善、運用コストの削減を実現するために設計されています。
従来の二者間契約では、取引条件や与信枠を事前に定めることで決済リスク(受渡通貨を受け取れない場合に損失を被るリスク)を抑えようとします。しかし、相手が約束通りに支払うかどうかは、最終的に「信用」に依存します。
そのため、契約を結んでいても決済が滞るリスクを完全に排除することは難しく、契約や管理の手間も大きいという課題がありました。
一方、StableFXでは 「支払い対支払い(PvP:Payment versus Payment)」 と呼ばれる仕組みを採用しています。これは、売り手と買い手の資金が同時に動く場合にのみ取引が成立する設計です。どちらか一方だけが先に支払うことがないため、決済リスクを構造的に排除しています。
これはStableFXの設計思想を示す一例に過ぎませんが、決済リスクを「信用」ではなく「仕組み」で解決しようとする点に、Circleの戦略が表れています。
StableFXは、Circleが開発するブロックチェーン「Arc」上に構築されています。
Arcは、決済の確実性や記録の透明性を重視した金融インフラ向けのチェーンとして設計されている点が特徴です。StableFXは、このArc上で取引記録や決済を行うことで、為替取引に求められる信頼性や監査性を確保しています。
StableFXは、法人向けの本人確認(KYB)やマネーロンダリング対策(AML)を前提としたホワイトリスト型の参加設計を採用しています。これにより、不正利用や信用リスクを抑えつつ、伝統的金融と同水準のコンプライアンスを備えたFX取引を実現しています。
StableFXの大きな強みの一つが、流動性の集約です。
従来のFX取引では、特定の取引所や限られたカウンターパーティに流動性が分散しており、最適な価格を得るには複数の窓口にアクセスする必要がありました。
StableFXでは、RFQ(Request for Quote:見積依頼)方式を採用し、取引ごとに複数の流動性プロバイダーから見積もりを取得します。条件に合意した場合にのみ取引が成立する仕組みです。
これにより、分散していた流動性を一つのプラットフォーム上に集約。競争原理が働くことで、為替レートの改善やスリッページ(想定価格との差)の抑制が期待できます。
この方式は、銀行や機関投資家が従来のFX取引で用いてきた手法に近く、大口取引でも価格の乖離が起きにくい点が強みです。
StableFX上で利用されるのは、Circleによる審査プログラム「Circle Partner Stablecoins」に採択された各国通貨のステーブルコインです。現在、以下の10通貨が対応しています。
この中で、唯一の日本円建てステーブルコインがJPYCです。
JPYCは国内初の日本円ステーブルコインとして、JPYC株式会社が発行・運営しています。「誰もが使えるオープンな金融インフラ」を掲げ、低コストかつスピーディな国際送金・決済手段の提供を目指しています。今後3年で10兆円規模の発行残高を目標としています。
JPYC株式会社は、採択の理由として以下の4点を挙げています。
特に注目すべきは、コンプライアンスへの取り組みです。Circle Partner Stablecoinsへの参加には、技術・運用・準備金管理といった多面的な基準が設けられています。
JPYCは発行残高の100%以上を日本円(預貯金および国債)で裏付けるとともに、外部機関と協業したトランザクション監視体制を構築するなど、規制遵守とリスク管理を徹底してきました。こうした姿勢は、法令遵守・透明性を重視するCircleの方針とも一致しています。
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Circle Partner Stablecoinsの基準を満たし、StableFXのパートナー通貨に採択されたJPYC。この連携により、以下のような影響が期待されます。
StableFXを通じて、日本円建てステーブルコインが国際的な為替取引の選択肢に加わります。これにより、海外の機関投資家や企業が日本円にアクセスしやすくなる可能性があります。
従来の国際送金と比べ、ブロックチェーンを活用した決済は手数料・時間の両面で効率化が見込めます。日本円決済のコストが下がれば、ビジネス利用の拡大にもつながります。
円建てステーブルコインの存在感が高まることで、今後の金融イノベーションにおいて「円対応」が標準的に含まれるようになる可能性が高まります。
StableFXを含む国際的な決済インフラでの活用が進めば、JPYCの発行残高や利用規模が拡大する可能性があります。その結果、JPYCが掲げる国債などによる準備金運用の取り組みも、より現実的なものになるかもしれません。
このように、JPYCとStableFXの連携は、JPYCだけの利益にとどまりません。日本円決済の利便性向上、そして将来の金融イノベーションにおける日本円のプレゼンス強化という点で、大きな意味を持つと考えられます。
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本記事では、主に以下の3点について解説しました。
暗号資産市場と伝統的金融との距離は、着実に縮まりつつあります。
もはや「暗号資産は暗号資産で完結し、既存金融とは別物」という時代ではありません。両者が共存し、互いの強みを活かす次世代型金融がすぐそこまで迫っています。
StableFXとJPYCの連携は、その象徴的な一歩と言えるでしょう。
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