「トークンはネットワークの象徴」Animoca BrandsのYat Sui会長、WebXで文化へのインパクトを語る
Web3総合企業Animoca Brandsの共同創業者兼会長のYat Sui氏が、8月26日に東京で開催された大型Web3カンファレンス「WebX」に登壇し、トークン化が文化や社会にもたらす影響について、独自の視点を語った。
Yat Sui氏はまず、トークン化とは対象となるものを単にデジタル資産に変えることではなく、ネットワーク効果を生み出し、そのネットワークを拡大する役割を果たすと指摘。それゆえトークンは「ネットワークの象徴」となると主張した。
90年代のネットワークの象徴はウェブサイトであり、注目を集めて広告で収益を得る手段だった。Web2.0では注目=価値を収益化するのは、その価値が帰属するインスタグラムやFacebookなどのプラットフォームだ。オンライン広告の収益は年間1兆ドル(約147兆円)の規模と言われている。
しかし、トークン化はその状況を一変させる。ユーザーやクリエーターに価値を直接還元することが可能になるからだ。個人でも暗号資産(仮想通貨)やミームコイン、NFTなど、トークン化された資産を通じてネットワークに参加し、ネットワーク効果の一部を所有できるようになる。
トークン化の核心は、まさにこの「ネットワーク効果」にあるとYat Sui氏。アニメや知的財産(IP)、芸術や音楽などの文化的資産をトークン化することで、地理的・経済的制約を超えて、世界中に拡散することが可能になる。トークン化によりインターネット上の価値は、どこでも流通可能になる。
そして、洋服、住居、旅行、映画など我々がお金を使うものの99%は文化に関連していると同氏は指摘する。日本がその好例だ。
世界知的所有権機関(WIPO)は世界のすべてのIPの価値は約68兆ドル(約1京円)と推定しているが、これは金の価値の約8~10倍に相当する。IPのすべては仮想的なもので、文化がすでに世界で最も価値があるものになっている。そのため、文化のトークン化は最大の拡大の可能性を秘めているとYat Sui氏は強調した。
Yat Sui氏は、メタバースプラットフォームのThe Sandbox(サンドボックス)が大きく成功した要因として、「デジタル資産の価値を理解するインターフェイスを構築したこと」を挙げた。
The Sandboxのようなプラットフォームは、NFTを通じてデジタル所有権の概念を広めた。特に2021年から2022年にかけて、デジタル所有権を理解する手段として、多くの人々がサンドボックスのようなプラットフォームを通じて、仮想通貨分野に参入。仮想土地や資産のNFTが、ビットコインのような抽象的な資産に比べ、物理的な土地の価値に似ているため理解しやすかったという。
さらにサンドボックスのユーザー数はゲーム業界に比べ小さいが、平均ウォレットの資産は25万〜50万ドルで、顧客一人当たりの価値が高かったことも大きい。
また、仮想通貨ネイティブのユーザーにアプローチしたことも成功要因だったと付け加えた。
Yat Sui氏は、NFTは「社会的、文化的、象徴的資本のデジタル形態」であり、ルネサンス芸術やピカソなど伝統的なアートが特定の文化や地域の価値を反映するように、NFTはクリプト文化の価値を反映していると指摘した。
時代とともに新しい富裕層が誕生すると、そのグループにとって意味のある、新たな文化的アイコンが生まれる。時代を超越するものもあれば、それぞれの世代に根付いたものもある。
同氏はNFTを「デジタルネイティブ文化のステータスシンボル」と位置付けており、ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨で富を築いた新富裕層にとっては文化的アイコンとなっていると主張する。
ただし、仮想通貨やNFTの世界外の人々には、その価値が理解しづらいと付け加えた。なお、NFTのブームは去ったと言われるが、このような新富裕層に支えられ、実際には毎月5~6億ドルのNFTが取引されているという。
このようなターゲット層にアプローチしたのが、ティファニーやグッチなどのラグジュアリーブランドで、NFTの販売で成功を収めた。
Yat Sui氏は、今後トークン化を発展させるためには、仮想通貨ウォレットの普及と、ユーザーの金融リテラシー向上が不可欠だと主張する。
現在、世界にはおよそ5億人の仮想通貨保有者がいるが、実際にオンチェーン上で活用しているのはそのうちの約10%に過ぎず、大多数の利用が依然として投機目的にとどまっており、Web3が本来提供できるユースケースは十分に活かされていないのが現状だという。
Animoca Brandsでは、Web3やゲーム、AIなどへの投資に加え、「10億人をWeb3にオンボードする」ことを目指しているとYat Sui氏。具体的な取り組みとしては、東南アジアで、個人単位での資金提供を可能にする学生ローンのトークン化を開始する。学生は、このプロセスを通じてウォレットを持ち、金融リテラシーを身につけ、エコシステムに参加するメンバーとなる。
このような取り組みの一環として、Mocaverse(モカバース)と連携したデジタルIDの開発も進めている。これは、オンチェーン上で「担保なしの信用取引」を可能にするための基盤であり、今後の金融インフラとして重要な役割を果たすことになるとYat Sui氏は見ている。
同氏は、最終的にWeb3の持つ本当のパワーは金融リテラシーの向上にあると考えており、全ての人にとってより良い社会環境を築く鍵になると信じているとまとめた。
WebXとは、日本最大の暗号資産・Web3専門メディア「CoinPost(コインポスト)」が主催・運営する、アジア最大級のWeb3・ブロックチェーンの国際カンファレンスです。
このイベントは、暗号資産、ブロックチェーン、NFT、AI、DeFi、ゲーム、メタバースなどのWeb3関連プロジェクトや企業が集結。起業家・投資家・開発者・政府関係者・メディアなどが一堂に会し、次世代インターネットの最新動向について情報交換・ネットワーキングを行うイベントです。
数千名規模の来場者と100名以上の著名スピーカーが参加し、展示ブース、ステージプログラムなどを通じて、業界最前線、グローバル規模の交流とビジネス創出が行われます。
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