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「台風が来ないこと」に投資する──災害保険を支える債券がRWAに

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2026年10月12日、CoinDeskが災害債券のトークン化計画を取り上げました。災害債券とは、ハリケーンや地震などによる巨額の損失を投資家が引き受けるような金融商品です。法律事務所Harneysとトークン化企業droppRWAは、2027年初頭にブロックチェーン上で権利を管理する災害債券の試験的な発行を目指しています。構想自体は同年9月3日に公表されており、今回は災害保険が不足する地域に資金を届ける可能性が改めて報じられました。

投資家は、契約で決められた規模の災害が起きなければ利息を受け取れます。逆に、その条件に達すると投資した元本の一部や全部を失います。いわば 「台風が来ないこと」に投資する仕組み ですが、弱い台風が通過しただけで損失が発生するわけではありません。

保険に入る人の反対側に、投資家がいる

身近な例では、農家が台風で作物を失う事態に備えて保険に入ります。農家は保険料を払い、契約で定められた被害が発生すれば保険金を受け取ります。保険会社はその支払いを引き受けますが、大きな台風で多数の契約者が同時に被災すれば、支払額も膨れ上がります。

災害債券は、そうした巨大災害のリスクの一部を金融市場の投資家へ移す方法です。政府や保険会社などが保険料に相当する費用を負担し、投資家は債券を購入して資金を拠出します。平時はその資金の運用収益やリスクを引き受ける対価を原資として利払いを受け、満期には原則として元本が戻ります。指定された災害が起きれば、投資家の元本が減額され、それに対応して保険契約に基づく支払いが行われます。

保険を買う側が備えたいのは大災害による出費で、投資家が引き受けるのはその支払いに必要となる損失です。台風の被害を減らす商品ではなく、被害が起きたときのお金を事前に用意しておく仕組みです。

15の投資家がジャマイカのリスクを引き受けた

実際にこの仕組みを使ったのが、カリブ海の島国ジャマイカです。2024年4月、世界銀行はジャマイカ政府のハリケーン保険を裏付ける1億5,000万ドルの災害債券を発行しました。ジャマイカ政府が世界銀行との契約に基づいて保険料を負担し、世界銀行が債券を発行して災害リスクを資本市場に移す構造です。

購入には世界の15の投資家が参加しました。利払いには基準となる短期金利などに加え、年7.00%のリスクマージンが設定されています。数字だけ見ると金利の高い債券のようですが、この対価と引き換えに投資家は元本の全額を失う可能性も受け入れています。

契約は2024年から2027年までのハリケーンシーズンに備えるものでした。ところが発行した年と翌年で、支払いが正反対な結果となってしまいました。

2024年は被害が出てもゼロ、2025年は全額支払い

2024年7月、ハリケーン「Beryl(ベリル)」がジャマイカの南を通過しました。島内には被害が出たものの、災害債券からの支払いはゼロでした。ジャマイカ財務省によると、中心が首都キングストンの約45マイル南を通過し、進路と勢力が契約で定めた条件を満たさなかったためです。

この債券は、被害を受けた家の数や農作物の損失額で支払いを決めていません。中心気圧や通過地点などの数値を基準にする「パラメトリック方式」が採用されていました。災害後に大量の損害査定を行う前に支払いを判定できますが、実際に被害があっても指定された数値に届かなければ保険金は出ません。ジャマイカは別の保険や災害基金、緊急融資枠も組み合わせ、災害債券を特に深刻なハリケーンへの備えとしていました。

翌2025年10月のハリケーン「Melissa(メリッサ)」では、進路と中心気圧が支払い条件を満たしました。世界銀行は11月7日、ジャマイカに1億5,000万ドルが全額支払われると発表しました。政府には災害対応に使える資金が入り、投資家側では債券の元本が全額減額されました。

同じ国にハリケーンが来ても、契約で決められた数値によって「ゼロ」か「全額」かが変わります。災害債券では、自然災害の進路や強さが投資家の損失を決める条件になります。

全額損失の翌年、投資家は15から25へ

2026年5月、世界銀行はジャマイカ向けに新たな2億ドルの災害債券を発行しました。前年に1億5,000万ドル分の元本が全額失われたにもかかわらず、応募は当初の目標を上回り、発行規模が拡大しています。

ジャマイカ財務省によると、2024年に15だった参加投資家数は2026年には25になりました。同じ投資家が買い直したという意味ではなく、元本の全額損失が発生した後の新たな発行でも、より多くの参加者が集まったということです。

災害債券を買う投資家は、災害の発生確率と元本を失う可能性を見積もり、それに見合う利払い条件かどうかを判断します。大きな損失が現実に発生しても、そのリスクを引き受ける市場は続いています。

保険を支える債券をブロックチェーンへ

今回のHarneysとdroppRWAの計画は、こうした災害債券の権利をブロックチェーン上で管理するものです。RWAは、不動産や国債など現実世界の資産や権利をトークンとして表す取り組みを指し、災害リスクを引き受ける債券がトークン化の対象です。

両社は、投資家の保有記録を法的な権利関係と結び付け、所有者の確認や譲渡、支払いなどを共通の記録で管理する構想を公表しています。従来は複数の関係者が帳簿を照合していた工程を減らす狙いがありますが、実際の効果はまだ確認されていません。

さらに報道では、従来の災害債券で25万ドル以上となることもある投資単位を、5,000ドル程度に下げる案が紹介されました。こちらは債券を保有する事業体の受益権を小口化する方式です。債券そのものの所有権を直接記録する仕組みとは、投資家が持つ権利の形が異なります。

2027年初頭の発行はあくまで目標です。実現には規制当局の承認が必要で、プラットフォームを管理する事業者にはバミューダの2018年デジタル資産事業法に基づくライセンスが求められます。5,000ドルになれば誰でも購入できるという段階には至っていません。

5,000ドルに小分けしても変わらないもの

Swiss Reの集計では、2025年の世界の自然災害による経済損失は2,200億ドルで、そのうち保険によって補償された損失は1,070億ドルでした。残る約1,130億ドル相当の損失は保険でカバーされていません。保険料の負担や補償範囲など、災害保険が行き届かない理由は地域によって異なります。

小口化によって投資家が増えれば、これまで引き受け手を見つけにくかった地域の災害保険にも資金が集まる可能性があります。ただし、ハリケーンの発生確率や被害データを評価する作業は残ります。さらに、国や企業が負担できる保険料で、投資家の求める対価を賄えるかも問題です。

ジャマイカの2024年の債券を5,000ドル単位に分けたとしても、Berylで支払いがゼロだった判定は変わりません。Berylでも保険金が出る契約へ広げるなら、投資家はより多くの災害で元本を失うリスクを引き受けます。その追加リスクに見合う対価を誰が負担するのかという話になります。

2027年のトークン化計画によって、これまで集めにくかった資金を呼び込めれば、災害リスクの引受先が増え、保険契約の選択肢も広がります。その一方、補償範囲を広げた分の費用は、国や企業が支払う保険料に反映されます。ジャマイカの2024年のBerylにも保険金が出るような債券を成立させるには、ブロックチェーンの処理速度より先に、政府が支払える保険料と投資家が求める対価を釣り合わせる必要があるかと考えられます。


参考資料

CoinDesk(2026年10月12日)
Tokenized catastrophe bonds target the disaster-insurance gap
https://www.coindesk.com/business/2026/10/12/tokenized-catastrophe-bonds-target-the-disaster-insurance-gap
CoinDesk(2026年9月3日)
Catastrophe bonds may join tokenization rush, with plans for test issuance in 2027
https://www.coindesk.com/business/2026/09/03/catastrophe-bonds-may-join-tokenization-rush-with-plans-for-test-issuance-in-2027
droppRWA・Harneys(2026年9月3日)
災害債券トークン化計画の企業発表
https://www.einpresswire.com/article/939491321/dropprwa-harneys-to-disrupt-the-141-billion-insurance-linked-securities-market-with-on-chain-legal-title
世界銀行(2024年4月25日)
ジャマイカ向け災害債券の発行
https://www.worldbank.org/en/news/press-release/2024/04/25/world-bank-returns-to-the-cat-bond-market-providing-financial-protection-to-jamaica
ジャマイカ財務省(2024年7月5日)
ハリケーンBerylの支払い条件
https://www.mof.gov.jm/update-on-the-disaster-risk-financing-instruments/
世界銀行(2025年11月7日)
ハリケーンMelissaによる全額支払い
https://www.worldbank.org/en/news/press-release/2025/11/07/hurricane-melissa-triggers-100-payout-of-150-million-world-bank-catastrophe-bond-for-jamaica
世界銀行(2026年5月18日)
ジャマイカ向け2億ドルの災害債券
https://www.worldbank.org/en/news/press-release/2026/05/18/world-bank-prices-catastrophe-bond-for-disaster-protection-for-jamaica
ジャマイカ財務省(2026年5月27日)
新たな災害債券への25の投資家の参加
https://www.mof.gov.jm/jamaica-secures-us200-million-in-hurricane-insurance-coverage-through-new-world-bank-catastrophe-bond/
Swiss Re Institute(2026年)
2025年の自然災害による経済損失・保険損失
https://www.swissre.com/institute/research/sigma-research/sigma-2026-01-natcat-2025-wildfire-storm-risk/global-natcat-losses-2025.html
※本記事は公開情報をもとに暗号資産・ブロックチェーン関連ニュースを解説した一般的な情報提供であり、特定の金融商品や暗号資産の売買を推奨するものではありません。


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