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3億件の取引でもL2「サ終」──なぜ独自チェーンを作る必要があったのか

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2026年10月6日、EthereumのL2「Abstract」が、12月15日の運用終了を発表しました。累計3億2,500万件以上の取引が行われ、144以上のアプリが展開されていたブロックチェーンです。4日前には同じくEthereumのL2であるBlastも閉鎖を発表し、7月にはPolygon zkEVMがブロック生成を停止していました。

L2はEthereumの取引を別のブロックチェーンで処理する仕組みで、手数料の安さや処理速度を売りに多くのプロジェクトが参入してきました。AbstractにはPudgy Penguinsという人気NFTブランドもついていました。
それでも運営を続けられなかった理由を考えると、取引件数の多さよりも気になることが一つあります。

そもそもAbstractは、独自のL2まで運営する必要があったのでしょうか。

ペンギンの人気は、チェーンの強みだったのか

Abstractは、一般ユーザーがゲームやエンタメを楽しむためのL2として2025年1月に始まりました。メールアドレスなどから簡単に利用できる「Abstract Global Wallet」、ゲームや配信を集めた「Portal」、そしてPudgy PenguinsのIPのファン層がついていました。全体的に難しい操作を意識せずに遊べる体験を目指した設計になっています。

ところが、これらは必ずしもAbstractだけでしか実現できない機能ではありませんでした。彼らが機能としてアピールしていたウォレットを扱いやすくするAccount Abstraction(アカウント抽象化)は他のネットワークでも利用されており、ゲームの紹介や配信を集めるPortalはブロックチェーンではなくアプリ側の仕組みです。Abstract自体も、ZKsyncの「ZK Stack」を基盤に構築されています。

2025年2月、Abstractの開発関係者は、Portalとチェーンを一体化して見せた結果、両者を混同する利用者がいたと説明しました。そのためPortalを専用のサブドメインへ移す方針を発表しています。利用者が触れていた便利さの多くは、ネットワークそのものより、その上に作られたサービスが提供していました。

Pudgy Penguinsのファンがゲームで遊ぶとき、求めているのはペンギンのコンテンツです。そのゲームが既存のL2上でも同じように動くなら、ファンを集めるために自前のチェーンまで持つ必要は薄くなります。独自のIPで集客できることと、開発者がAbstractを継続的に採用することの間には、もう一段の理由が必要なのかもしれません。

「DeFiは別のチェーンへ」と語っていたAbstract

立ち上げ直後の2025年1月、IglooのLuca Netz氏は、DeFiアプリを作りたい開発者にはBerachainやArbitrumを勧め、Abstractは楽しさと拡散性のあるアプリに特化すると語っていました。当時から、他のL2と同じDeFi市場で競争するつもりはなかった様子です。

ところが2026年10月の終了発表では、成長の停滞、流動性の薄さ、DeFi市場の小ささ、機関投資家による利用の少なさを挙げていました。金融用途を前面に出さずに始まったチェーンが、最後には金融関連の需要不足に直面しました。

DeFiでは、資産の交換や貸付などに伴う取引が発生します。ゲームや配信でもアプリ事業として継続的な収益を生み出せますが、それがそのままL2の収入になるわけではありません。L2の運営を取引手数料で支えるには、チェーン上で継続的に利用されるサービスを育てる必要があります。

Blastが集めた20億ドルは、誰のための資金だったのか

Blastは別の方法で人と資金を集めました。ETHやステーブルコインを預けると利回りを得られる仕組みを備え、エアドロップへの期待が初期の資金流入を後押ししました。TVL(預け入れ資産の評価額)は一時20億ドルを超えましたが、終了発表時には約3,200万ドルまで縮小していたと報じられています。

利回りはBlastの機能上の特徴です。しかし、利用者が求めているのが利回りであれば、より条件のよい預け先が現れたときに移動する動機もあります。20億ドル分の資産が預けられていても、その金額がBlastの売上になるわけではありません。資産を預けたまま動かさなければ、取引手数料も繰り返し発生しません。

10月2日、Blastは運営費がL2の収益を上回り、採算を改善する現実的な道筋が見つからなかったと説明しました。利回りやエアドロップは最初の資金を呼び込むうえで強力な仕組みでしたが、報酬施策が終わっても使い続けてもらえる経済圏を維持するのは難しかったと考えられます。

3億件の取引は、運営会社の売上ではない

Abstractについては、チェーン上の事業者が累計4,000万ドル以上の収益を生んだという数字も公表されています。これはチェーン上の事業者が得た収益であり、Abstractを運営するIglooの収入額を示すものではありません。

例えばゲーム内でアイテムが売れると、販売代金を受け取るのはゲームの運営者です。L2を運営する側には主に取引手数料が入り、そこからEthereumへのデータ記録費用やネットワークの運用・開発費などを負担します。アプリの売上が伸びても、取引手数料から得られる収入だけでL2の維持費を賄えるとは限りません。

手数料の安さは利用者にとって魅力ですが、運営側が1件の取引から得られる収入は小さくなります。イベントや報酬施策が一時的に件数を押し上げても、それだけでは固定的な運営費を支えられるか判断できません。

Abstractの終了にあたり、Luca Netz氏は独自トークンを発行せず、Pudgy Penguinsの事業に注力する方針を示しました。また、需要を生み出すものがなければトークンは機能せず、自信の持てないトークンを発行するのはコミュニティのためにならない、と説明しています。

技術的な成果だけでは、事業は続かない

2026年7月に停止したPolygon zkEVMは、技術面からこの問題を考える材料になります。Polygonは2025年の終了方針で、ZK技術の高度な成果を認める一方、開発の遅れや使い勝手、他チェーンとの差別化の不足を挙げました。高度な技術を実現しても、それが開発者や利用者の需要に結びつくとは限らなかったのです。

独自の技術が採用理由になる例としては、L1のSuiがあります。SuiはMoveやオブジェクトモデルを採用し、資産やデータの扱い方を基盤から変えています。一方、EthereumのL2であるBaseは、既存のOP Stackを使いながら、Coinbaseの顧客や製品と接続する経路を当初から打ち出しました。

Ethereum Foundationも2026年3月、L2の役割が単なる処理能力の拡張から、独自機能、サービス、事業戦略、運営上の自由度へ移ってきたと説明しました。共通の開発基盤からL2を立ち上げられる現在、チェーンを作れるというだけでは差別化が難しくなっています。

ペンギンは残った。必要だったのは何か

独自のL2を持つ企業が競争する相手は、ほかのL2だけではありません。既存のチェーンを利用し、独自チェーンの開発や運営にかかる資金をゲームやコンテンツの充実に回すという選択肢もあります。自前のチェーンだからこそ実現できる体験や収益がなければ、運営を続ける負担が事業上の利点を上回ることも考えられます。

Pudgy Penguinsのように強いIPを持つ企業では、この判断がさらに興味深くなります。人気IPは独自チェーンへユーザーを呼び込む武器になりますが、ファンが求めているのはキャラクターやコンテンツです。既存のネットワークでも同じ体験を届けられるのであれば、IPの人気が高いことは、必ずしも独自チェーンを持ち続ける理由にはなりません。

Iglooが選んだのは、Abstractの運営を終え、Pudgy Penguinsの事業に注力する道でした。強いIPを持つことは、独自チェーンを成功させるうえで有利に働くと考えられています。しかし、そのIPがチェーンから独立した事業として成り立つのであれば、企業にはインフラを手放す選択肢も生まれます。Abstractへユーザーを呼び込む武器だったPudgy Penguinsは、チェーンの運営終了後も、Iglooが継続する事業として残ります。


参考文献

  • The Block:Abstract終了発表(2026年10月6日)

  • CoinDesk:Abstractの終了と取引実績(2026年10月7日)

  • CoinDesk:Abstract公開当初の戦略(2025年1月)

  • Abstract開発関係者:Portalとチェーンの違い

  • The Block:Blast終了発表(2026年10月2日)

  • Polygon公式:zkEVM終了の理由

  • Ethereum Foundation:L1とL2の役割の変化

  • Coinbase:Baseの構想

  • Sui公式:Object Model

※本記事は、公開情報をもとに暗号資産・ブロックチェーン関連ニュースを整理した一般的な情報提供であり、特定の暗号資産の売買を推奨するものではありません。


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