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ビットコインが勝手に凍結される?──量子対策のための取り組み

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BlackRockやCoinbaseなど9社が3年間で1,500万ドルを拠出

BlackRockやCoinbase、Fidelity Digital Assets、Strategyなど9社が7月23日、ビットコインの長期的な安全性を支える「Bitcoin Security Consortium」の設立を発表しました。参加企業は今後3年間で計1,500万ドルを拠出し、開発者や研究者を支援します。
(Consortium: https://www.strategy.com/press/leading-financial-institutions-bitcoin-companies-launch-the-bitcoin-security-consortium_07-23-2026 )

その対象の一つが、量子コンピュータへの対策です。

量子対策と聞くと、暗号技術を強化する話を想像するかもしれません。しかし移行計画として公開されている「BIP-361」には、期限までに対応しなかったBTCを動かせなくする案も含まれています。

所有者が秘密鍵を持っていても、BTCが凍結される可能性があるということです。

なぜ量子対策にそこまでの対応が必要なのか。今回は大手9社が支援を始めた背景とともに、ビットコインの凍結まで検討されている理由を解説します。

大手企業がビットコインの防衛に資金を出す

Bitcoin Security ConsortiumにはAnchorage Digital、ARK Invest、BlackRock、Block、Blockstream、Coinbase、Fidelity Digital Assets、Galaxy、Strategyが参加しています。ビットコインを保有する企業だけでなく、資産運用や取引、カストディ、決済、インフラを担う企業がそろいました。


1,500万ドルは一つの基金へ集めず、各社が支援先を選んで個別に拠出します。コンソーシアムがビットコインの開発を指揮するわけでも、特定の仕様変更を支持するわけでもありません。量子対策を含む長期的な安全性の研究を資金面で支える取り組みです。

参加企業が扱う保有資産や顧客のBTC、取引や決済のサービスもビットコインの暗号に依存しています。ネットワークの安全性が揺らげば、商品や事業の前提まで崩れます。

量子コンピュータはまだビットコインを破れる段階にはありません。それでも今から資金を出すのは、暗号方式を変更した後に世界中の利用者を移行させるまで長い時間がかかるためです。

量子コンピュータが狙うのは秘密鍵

ビットコインを送るには秘密鍵による電子署名が必要です。現在使われているECDSAやSchnorr署名は、公開鍵から秘密鍵を計算することが通常のコンピュータでは極めて難しいという前提で成り立っています。

十分な性能を持つ量子コンピュータでShorのアルゴリズムを動かせるようになると、その前提が崩れる可能性があります。公開鍵から秘密鍵を割り出した攻撃者は正当な所有者と同じ形式の署名を作り、BTCを別のアドレスへ送れるようになります。

特に狙われやすいのが、公開鍵をすでにブロックチェーン上へ出しているBTCです。BIP-361は2026年3月1日時点で、発行済みBTCの34%超が公開鍵を明らかにしていると推計しています。初期に使われた形式や再利用されたアドレスなどは、資産を動かしていない間も攻撃者に計算の時間を与え続けます。

NISTは2024年に最初の耐量子暗号標準を公開し、早期の移行を促しました。ビットコインでも耐量子型の署名は検討されていますが、新しい暗号を追加するだけでは問題は解決しません。
NIST: https://www.nist.gov/news-events/news/2024/08/nist-releases-first-3-finalized-post-quantum-encryption-standards

新しい暗号を作ってもBTCは自動で移らない

現在のアドレスにあるBTCは、耐量子型の仕組みが導入されても自動では移動しません。保有者が新しいアドレスを作り、自分で送金する必要があります。取引所やカストディ事業者、ウォレットも新しい方式へ対応しなければなりません。

ここがビットコイン特有の難しさです。

銀行であれば運営側がシステムを更新し、利用者の残高を新しい仕組みへ引き継げます。しかしビットコインには全員の資産をまとめて移す管理者がいません。新しい方式を選ばない人や移行を知らない人、長期間秘密鍵へ触れていない人も残ります。

古い署名方式をいつまでも使える状態にすれば、量子コンピュータが登場した後も攻撃対象が残り続けます。そこでBIP-361は耐量子型の送金先を導入した後、従来の署名を段階的に終了させる計画を示しました。2026年2月に公開された草案で、現時点で採用は決まっていません。

移行しなかったBTCは秘密鍵を持っていても動かせなくなる

BIP-361の移行は二段階です。最初のフェーズAでは有効化から約3年後をめどに、量子攻撃に弱いアドレスへ新しくBTCを送れなくします。古いアドレスから耐量子型のアドレスへ移すことができるため、この期間に移行を促す設計です。

有効化から5年後のフェーズBでは、ECDSAやSchnorrによる従来の署名だけでは対象のBTCを動かせなくします。正当な所有者であっても現在の秘密鍵だけでは送金できず、量子攻撃者には用意できない別の情報を使った救済手続きが必要になります。

これが凍結です。

ネットワーク全体を止めるのではなく、期限までに移行しなかったBTCから従来の送金方法を取り上げます。秘密鍵を持つ人が資産を動かせるというビットコインの基本原則に、量子対策を理由とした例外を設ける形です。

なぜ正当な所有者まで巻き込むのか

量子コンピュータが公開鍵から割り出した秘密鍵と、所有者が以前から保管していた秘密鍵は署名だけを見ても区別できません。どちらも同じ秘密鍵であり、ネットワークから見れば正しい署名になるからです。

長期間動いていないBTCについても、所有者が保有を続けているのか秘密鍵を紛失したのかは判別できません。古い署名を残せば正当な所有者はいつでも動かせますが、量子攻撃者にも同じ道を残します。BIP-361は攻撃者に奪われる可能性を残すより、未移行のBTCへ追加条件を設ける方を選びました。

救済方法として想定されているのは、HDウォレットの親鍵やシードなど公開鍵から秘密鍵を計算しただけでは入手できない情報を使う方法です。ただし古い秘密鍵だけを紙へ記録していた場合などは追加の証明を用意できず、正当な所有者でも資産を動かせない可能性があります。

量子対策は暗号技術だけの問題ではありません。

盗難を防ぐために所有者へ移行を求め、対応しなかった資産の利用を制限してよいのかという判断が必要になります。中央管理者を置かずに所有権を守ってきたビットコインだからこそ、全体の安全性を優先する変更には大きな議論が伴います。

1,500万ドルが示す移行の始まり

Bitcoin Security Consortiumが資金を出し始めたのは、耐量子暗号の研究から仕様変更、事業者の対応、保有者の資産移動までに長い準備が必要だからです。

これまで量子コンピュータは、いつかビットコインを破るかもしれない未来の脅威として語られてきました。しかし大手金融機関が開発支援へ参加し、開発者側では古い署名の終了まで含む移行案が公開されています。

ビットコインを守るために、一部のビットコインを動かせなくする。

その選択が本当に必要になるかはまだ決まっていません。ただ量子対策の議論は、暗号を強くする段階から誰のBTCをどの条件で守るのかを決める段階へ進み始めています。

※本記事は、公開情報をもとに暗号資産・ブロックチェーン関連ニュースを整理した一般的な情報提供であり、特定の暗号資産の売買を推奨するものではありません。

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