米資産運用大手ブラックロックが、AIと仮想通貨の関係を分析したレポート「The Machine-Native Economy(機械ネイティブ経済)」を公表した。同社はAIを「機械ネイティブな知性」、仮想通貨を「機械ネイティブなマネー」と位置付ける。AIシステムが金融・経済ネットワークと関わる力を強めるほど、両者が融合は進んでいくという。
最小限の人間の介入で複数段階のタスクを計画・実行し、外部ツールと自律的にやり取りするAIエージェントが普及すれば、知能と経済活動を結びつける「プログラム可能なインフラ」として、ブロックチェーンや仮想通貨の重要性が高まる可能性がある。
ブラックロックが挙げるAIと仮想通貨の接点は、「トークン化」「機械間決済」、そしてAIを動かすために不可欠な「計算資源(Compute)」の3つだ。
まず、AIの大規模言語モデル(LLM)とブロックチェーンのトークン化アーキテクチャには類似性がある。LLMは言語を分割してトークン化することで数値として処理し、ブロックチェーンは通貨や証券などの経済的権利をデジタル・トークンとして機械が検証可能な形で移転・決済する。
機能は異なるものの、どちらも現実世界の情報と価値を機械が扱いやすい形式に変換している点は共通している。
次に重要なのが、エージェント型コマースを支える決済インフラだ。AIエージェントの能力が高まり実社会での利用が広がるにつれて、マシンが自律的かつ高速に取引を行うための決済・資産インフラの需要が高まっていく。
仮想通貨やブロックチェーン技術は、APIの利用、データ取得、計算資源の利用など、24時間年中無休で発生する高頻度かつ超少額なマシン間(M2M)取引に極めて適しているとブラックロックはみる。
一方、既存の決済ネットワークは自動決済自体には対応しているものの、口座開設時の導入手続きや決済確定(ファイナリティ)の制限、高額な手数料がネックとなり、マシン間取引には向いていない。
こうした需要の拡大を背景に、コインベースの「x402」や、ストライプとテンポが共同開発する「Machine Payments Protocol(MPP)」、ストライプとOpenAIが手掛ける「Agentic Commerce Protocol(ACP)」など、AIエージェントによる決済やコマースを想定した新たなプロトコルの整備が進む。
エージェント型コマースを支える基盤として、ブラックロックが主要な決済手段になると見るのが、ステーブルコインだ。
2025年におけるステーブルコインの調整後取引高は11兆ドルを超え、ビザやマスターカードの年間決済取扱高と同等の規模に達した。2026年9月時点で流通するステーブルコインの時価総額は3,000億ドルを超える。2020年から2025年の年間成長率(CAGR)を見ても、ACH(米自動決済ネットワーク)が約8.5%にとどまる一方、ステーブルコインの取引高は約80%という大幅な伸びを記録した。
AIの学習や推論に必要な「計算資源」も、将来的に大規模なデジタル資産市場を形成する可能性がある。AIシステムやエージェントの稼働には、膨大な計算能力とエネルギーが必要となるため、AIの普及に伴い計算能力そのものが重要な「経済資源」となっていくとブラックロックは予想する。
AIの普及にはGPUやデータセンター、電力インフラなどへの巨額の投資が求められる。設備投資だけでなく、実際にAIを稼働させるための継続的な運用費も増大するとみられ、AI関連の累計設備投資は2025から2030年にかけて5兆ドルを超えるとの試算もある。
主要クラウド事業者(AWS、マイクロソフトのインテリジェントクラウド、グーグルクラウド)の合計売上高は、2030年には約1.1兆ドルに達すると市場では予想されている。計算能力が巨大な経済資源となれば、価格発見や将来の利用量確保、リスクヘッジのための金融市場が形成される可能性があるとブラックロックはみている。
将来的には、特定のGPUや地域、期間について「一定量の計算能力を利用できる権利」を標準化し、売買や担保設定、決済に利用することも考えられる。こうした計算資源の利用権をトークン化すれば、新たなデジタル資産として扱う可能性もある。
AIエージェントによる決済はまだ黎明期だが、自律型エージェントとマシンネイティブな決済インフラは構造的に相性が良い。ブラックロックは、今後のエコシステムの進化を注視すべき領域だとしている。