RWAという言葉を聞くと少し難しい金融用語のように感じる方も多いかもしれません。
国債、不動産、ファンド、ローン、証券。実際、RWAとして注目されている分野にはこうした金融寄りの資産が多くあります。ただ世界の事例を見ていくとRWAの対象はそれだけではありません。
ワイン、ウイスキー、高級時計、アート、カーボンクレジット、音楽の印税… 「え?そんなものまでトークン化するの?」 と思うような事例も出てきています。
もちろん、何でもトークンにすれば価値が生まれるわけではありません。むしろ、少し変わったRWA事例を見るほど、RWAの面白さと難しさが見えてくるかもしれません。今回の記事では、世界のユニークなRWA事例を見ながら、なぜ貴金属RWAが分かりやすいテーマとして注目されているのかを考えていきます。
RWAは現実資産をデジタル上で扱いやすくする
RWAはReal World Assetsの略です。日本語では「現実資産」や「実世界資産」と訳されることがあります。ざっくり言えば現実世界にある価値ある資産を、ブロックチェーン上のトークンとして扱えるようにする考え方です。
不動産の一部をトークン化する。
ゴールドをトークン化する。
債券やファンド持分をトークン化する。
将来入ってくる収益の一部をトークン化する。
このような仕組みによって、これまで高額で買いにくかった資産を小口で持てたり、移転しやすくしたり、取引履歴を確認しやすくしたりする可能性があります。
ただし、ここで重要なのは、RWAは「現物を魔法のようにデジタル化する技術」ではないという点です。現物はどこかにあり、誰かが保管しています。権利関係も必要で規制もあります。そして売りたいときに買い手がいるかも問題になります。
つまりRWAは、トークンを発行すれば終わりではありません。むしろ本当に難しいのは、現実世界の資産とデジタル上のトークンを、どれだけ信頼できる形でつなぐかだと思われます。
ワイン・ウイスキー:飲むのか、資産として持つのか
まず分かりやすく面白いのが、ワインやウイスキーのRWAです。高級ワインや熟成中のウイスキーは、時間とともに価値が上がることがあります。ただし、自分で保管するのは簡単ではありません。
・温度管理
・湿度管理
・真贋確認
価値を保ちながら保管するには、様々なコストやリスクがかかります。そこで、保管されているワインやウイスキーの権利をデジタル化し、トークンとして扱う発想が出てきます。
聞くだけなら、かなり面白いテーマです。高級ワインを少しだけ持つ、まだ熟成中のウイスキー樽に投資する、飲むためではなく資産として保有する。
ただ、同時に気を付けるべき点もあります。
そのワインは本当に存在するのか?
誰が保管しているのか?
管理状態は大丈夫なのか?
もし割れたらどうなるのか?
最後に誰かが飲んだらどうなるのか?
この実資産として保管しないメリットと、裏付けの信頼性がワインRWAの面白さでもあり、難しさでもあります。
高級時計・スニーカー:現物は1つ、権利は分けられる?
高級時計や限定スニーカーも、RWA的に語られやすいテーマです。ロレックス、限定スニーカー、ブランドバッグなどは、モノによっては高額で取引されます。しかし、誰もが気軽に買えるものではありません。
そこで「1つの高級品を小口化して、複数人で持つ」というRWAの強みが活かされます。現物は1つだが、その所有権や収益権をトークンとして分ける。
しかしここでもワインと同様に気を付けるべき点があります。
その時計は誰が保管するのか。
傷がついたら価値はどうなるのか。
偽物だったらどうするのか。
実際に身につけられないなら、何を持っていると言えるのか。
「高級時計を持っています。ただし、手元にはありません。」
この文脈には関係ないですが、モノの価値ってなんだろう?
という疑問が出てきます。
アート:0.001ピカソを持つ概念
アートもRWAと相性が良いと言われることがある分野です。有名な絵画やアート作品は、非常に高額です。普通の個人が1枚まるごと買うのは、なかなか現実的ではありません。
そこで、先ほどの時計やスニーカーのようにアート作品の所有権や収益権をトークン化し、小口で持てるようにする仕組みがあります。ただ、ここでも面白い疑問が出てきます。たとえば、0.001ピカソを持っているとして、何ができるのでしょうか。
家に飾れるわけではありません。
美術館から持って帰れるわけでもありません。
額縁の右下だけ自分のもの、というわけでもありません。
では、自分が持っているものは何なのか。 所有権なのか、収益権なのか、値上がり益への期待なのか。アートRWAも「所有する」とは何かを考えさせられるテーマでもあります。
音楽の印税:好きな曲の将来の収益を持つ?
音楽の印税やロイヤリティもRWA的に考えると面白いテーマです。たとえばある楽曲から将来発生する収益の一部をトークン化する。その曲が再生され、収益が発生すれば、トークン保有者が一定の収益を受け取る。これもイメージしやすいかもしれません。
好きなアーティストを応援しながら、楽曲の将来の収益に投資する。あるいは、過去の名曲を一種の資産として持つ。ただし、ここでも権利処理は簡単ではなさそうです。
どの収益が対象なのか。
誰が権利を持っているのか。
ストリーミング収益なのか、広告収益なのか。
契約はどうなっているのか。
「好きな曲の一部を持つ」と聞くとロマンがありますが、実際にはかなり細かな設計が必要になると考えられます。
RWAは「面白い」だけでは成立しない
ここまで見るとRWAはかなり自由な発想ができる魔法の分野に見えます。
ワインもトークンにする。
時計もトークンにする。
アートもトークンにする。
音楽の印税もトークンにする。
たしかに発想としては面白いです。ただし、RWAは「面白そうだからトークン化しよう」だけで成立するものではありません。変わった事例を見るほど、RWAに必要な条件が見えてきます。
本当に裏付け資産があるのか。
誰が保管しているのか。
法的には何を持っているのか。
価格はどう決まるのか。
売りたいときに売れるのか。
壊れたらどうなるのか。
偽物だったらどうなるのか。
RWAの難しさは、ブロックチェーンの中だけでは完結しません。 むしろ、現実世界との接続部分にあります。トークンは作れても、現物管理や権利設計が不十分であれば、信頼できるRWAとは言いにくいでしょう。
だから貴金属RWAは分かりやすい
こうした変わり種RWAを見たあとだと、貴金属RWAの分かりやすさが見えてきます。ゴールドやシルバーは世界中で価値が認識されています。純度や重量で説明しやすく、規格化もしやすい。保管や監査の仕組みも比較的整理しやすい。そして現物の弱点もはっきりしています。
重い。
分けにくい。
持ち運びにくい。
送るのが難しい。
保管に気を使う。
だからこそ、トークン化する意味が伝わりやすいのです。貴金属RWAは、ワインやアートほど派手なストーリーはないかもしれません。しかし、RWAとしての説明は比較的シンプルです。
「現物として価値があるものを、デジタル上で小口化し、移転しやすくする」
このRWAの基本が、ゴールドやシルバーでは分かりやすく表れます。
まとめ
世界を見てみると、RWAの対象はかなり広がっています。米国債や不動産のような王道の金融資産だけでなく、ワイン、ウイスキー、高級時計、アート、音楽の印税まで、さまざまな資産がデジタル化の対象になっています。
一見すると、「そんなものまでトークン化するの?」と思うような事例もあります。しかし、変わり種RWAを見ることで、RWAの本質も見えてきます。
大事なのは、何でもトークンにすることではありません。本当に価値がある資産を、より小さく、より速く、より透明に、より扱いやすくすることです。その中で、ゴールドやシルバーといった貴金属は、RWAの意味を理解しやすい資産だと考えられます。
価値が分かりやすく、現物として存在し、保管や裏付けの説明もしやすい。そして何より、現物のままでは重く、分けにくく、動かしにくいという課題があります。だからこそ、貴金属RWAは「現実資産をデジタル化する意味」が伝わりやすいのかもしれません。
ワインも時計もアートも勿論面白い。しかし、このRWAという分野はまだ世界に浸透していない分野です。まずはゴールドやシルバーがRWAとしての価値を示し、RWAに関する規制やルールが明確に作られて、その後にユニークなRWAがしっかりとした規制のもとで流行っていくのかもしれません。
