生成AI「Claude」を開発するアンソロピック(Anthropic)は2026年5月、自社サポートページで取締役会未承認の株式譲渡や販売はすべて無効(void)であり、株主名簿にも記載されないとする警告を発した。
同社は、特定の投資会社やプラットフォームが提供する「将来のファイナンスへの参加機会」や「間接的なエクスポージャー」を謳った勧誘に対し、それらが同社の譲渡制限を回避しようとする無効な取引である可能性が高いとして、投資家に注意を呼びかけている。
アンソロピックの規定によれば、普通株および優先株の譲渡には同社取締役会の承認が必須とされている。特に、個人投資家の資金をまとめて投資する「SPV(特別目的会社)」によるアンソロピック株の取得は一切認めておらず、これらを通じた過去または将来の資金調達ラウンドへの投資提案は禁止されている。
また同社は、トークン化された証券やフォワード・コントラクト(先渡契約)といった手法についても、同社の権利制限に抵触するものであり、議決権や配当権が認められず投資価値がゼロになるリスクがあると言及した。
この警告の背景には、アンソロピックの未公開株に対する二次流通市場での加熱した需要がある。2026年2月に実施されたシリーズGの資金調達ラウンドでは、同社の評価額は約3,800億ドル(1株あたり約259.14ドル)とされていた。しかし、その後の二次流通プラットフォームや仮想通貨ベースのデリバティブ市場では、1株あたり1,000ドルに迫る価格が付けられる事例もあり、市場価格ベースの評価額は約1兆ドル規模にまで膨れ上がっている。
さらに2026年に入ってからは、未公開株のトークン化や「プレIPO資産」を扱う商品の存在感が増しており、SEC周辺でも制度整備をめぐる議論が進んでいる。発行体の承認を経ないかたちで未公開株への「間接的エクスポージャー」を提供する商品が拡散しやすい環境となっており、今回の警告はそうした構造的背景に対する企業側の反応とも位置づけられる。
アンソロピックは今回の発表において、同社株式の売買を承認していない特定の企業名を具体的に列挙した。
対象には、Open Door PartnersやUnicorns Exchangeに加え、主要な二次流通マーケットプレイスであるHiiveやForgeなども含まれている。同社は、これらの企業から提供される株式の譲渡や利益の供与は、同社の帳簿上では認識されない無効なものであると断定しており、投資は「自己責任」で行うよう強く警告している。
一方で、市場関係者からは冷静な見方も出ている。一部のアナリストは、アンソロピックの主張は未公開企業では標準的な「優先買取権(ROFR)」の行使や譲渡制限の再確認に過ぎず、Hiiveのようなプラットフォームは通常、購入者に代わって取締役会の承認を取得する手続きを踏むと指摘している。
もっとも、企業側が「無効」と宣言したとしても、トークン化市場における取引価格そのものが消えるわけではない。実際、Hyperliquidなど一部の仮想通貨プラットフォームでは、Anthropic株を裏付けとする永久先物に活発な需給が生じており、ミームコイン的な値動きをみせる場面もある。
ただし、これらの商品は議決権・配当権・IPO時の株式交換権といった本来の株主権利を伴わず、規制当局の摘発やプラットフォームの破綻、企業側の警告が市場に浸透した局面で、価格の裏付けが急速に失われるリスクを内包する。
ただし、仮想通貨プラットフォームで提供されるトークン化された「プレIPO資産」や永久先物契約などは、企業側が承認していないケースが多く、議決権や配当権を持たない「デリバティブ」としての性質が強いため、より高いカウンターパーティリスクを伴うとされる。
仮想通貨業界では、バイナンスやビットゲットなどの大手取引所がスペースXやOpenAIといったテック巨頭のプレIPO取引を提供し始めているが、これらも発行体企業による直接の承認を得たものではない。アンソロピックの最新の警告は、急成長するAIスタートアップへの投資機会を求める投資家資本に対し、法的な所有権が保証されないリスクを明確に突きつけたものといえる。


