東芝は7日、量子コンピューターの仕組みを古典(従来)コンピューター上で再現した「疑似量子コンピューター」向けの新アルゴリズムを開発・公表し、計算速度を従来手法比で最大100倍に高めつつ精度をほぼ100%に向上させたと発表した。日本経済新聞などが報じた。
『疑似量子コンピューター』とは、量子力学そのものではなく、量子系の数学的な振る舞いを古典コンピューター上で模倣する技術であり、本物の量子コンピューターと異なり現行のサーバー環境で即時運用できる点が特徴である。
東芝の新アルゴリズムは、コンピューターが最適解を探索する過程で計算結果が規則的から不規則へと変化する「カオスの縁」と呼ばれる領域に着目することで精度向上を実現した。従来モデル(旧世代の疑似量子計算機)が1.3秒を要していた問題を0.01秒以下で解くことに成功しており、東芝の後藤隼人シニアフェローは「50年後の量子コンピューターでも難しい速度と精度を実現した」と述べた。実装は1〜2年以内を目標とするという。
東芝が想定する主な応用領域は創薬、金融の資産配分、物流の最適化だ。
創薬分野では無数の化合物の組み合わせから最適な候補物質を絞り込む「組み合わせ最適化問題」の計算負荷が極めて高く、疑似量子技術の恩恵が最も早く実務に反映されやすいとされている。計算回数の削減は時間・コスト両面での効率化につながり、企業や行政が活用しやすくなる。
東芝は今後、問題の種類ごとに新アルゴリズムの有効性を検証し、一部で残る課題を解消した上で1〜2年以内の実装を目指すと報じられた。
こうした量子関連技術の進化は、仮想通貨市場でも警戒感を高めている。グーグルが先週公開したホワイトペーパーでは、50万個未満の物理量子ビットでビットコインが採用するECC-256(楕円曲線暗号)を数分で解読できる可能性が示され、従来比約20倍のリソース削減を達成したとされる。
グーグルは2029年を耐量子暗号への移行準備期限として設定しており、業界に緊張が走っている。
一方で、米仮想通貨資産運用会社グレースケール・インベストメンツは公式ブログにて、ビットコインへの量子リスクの本質は技術的問題よりもガバナンスにあると指摘した。
ビットコインはUTXOモデルとプルーフ・オブ・ワーク(PoW)方式を採用しているため工学的な量子脆弱性は他の仮想通貨より低いとしつつも、秘密鍵が失われたコインの扱いを含むプロトコル変更には、過去に激しい対立を繰り返してきたコミュニティの合意形成が最大の壁になると論じた。
イーロン・マスク氏は3月31日、AIチャットボット「グロック(Grok)」によるECC-256解読タイムライン分析とともにXへ投稿し、「パスワードを忘れたウォレットには将来アクセスできるようになる」と皮肉交じりにコメントした。
グロックの分析では楽観的シナリオで2028〜2029年、専門家の多数意見では2030年代前半が現実的な解読可能時期とされている。Chainalysisの調査では、2025年初頭時点で約230万〜370万BTC(総供給量の11〜18%)が永久に失われたと推計されており、量子技術の実用化がこれら「眠れる資産」への不正アクセスを可能にするとの懸念も浮上している。