暗号資産(仮想通貨)市場の調整局面が長期化しつつある。今年10月に過去最高値となる12万6000ドルに到達したビットコイン(BTC)は、その後急失速した。
10月10日、トランプ大統領による中国への100%関税発表を契機に、史上最大規模となる190億ドル超の清算が発生。ビットコインは過去最高値から一時9万ドル付近まで急落し、11月には8万ドル台前半まで下落した。米国の主要ビットコインETFからは10月以降、52億ドル超の資金が流出。12月現在も9万ドル台での低迷が続いている。
一方、この調整局面は過去2度の「仮想通貨の冬」とは様相が異なる。2018年や2022年の大暴落時には業界を揺るがすスキャンダルやシステム崩壊が引き金となったが、今回はそうした事象は確認されていない。
むしろ規制環境の整備が進展し、トランプ政権による強力な後押しが続く中での下落という、過去前例のない状況となっている。
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2018年の仮想通貨市場崩壊は、敵対的な規制環境の中で発生した。
中国政府による全面的な仮想通貨禁止措置や各国規制当局による実態のないICO(新規仮想通貨公開)プロジェクトへの取り締まり強化が、バブル的に膨らんだ投機資金の撤退を招いた。
ビットコインはピーク時から80%以上下落し、仮想通貨市場から機関投資家はほぼ撤退した。この時期の暴落は純粋な投機バブルの崩壊であり、仮想通貨そのものの正当性が問われる局面となった。
2022年の市場崩壊は、仮想通貨市場内部の構造的脆弱性が露呈した形で発生した。ステーブルコインTerraUSDの崩壊に始まり、Three Arrows CapitalやAlameda Researchなどの大手ヘッジファンドやレンディング企業の破綻が連鎖的に発生。最終的に大手仮想通貨取引所FTXの破綻が市場に壊滅的な打撃を与えた。
同時に米連邦準備制度理事会(FRB)による急激な金融引き締めが進行し、流動性の枯渇が事態を悪化させた。この時期、ビットコインは約70~80%下落し、仮想通貨業界の存続を疑問視する声すら上がるほどの悲観論が市場を支配した。
2025年後半、仮想通貨市場は再び調整局面を迎えた。10月に12万6000ドルの過去最高値を記録したビットコインは、11月には一時8万ドル台まで下落。12月現在も9万ドル前後で推移している。
しかし、この調整局面は2018年や2022年の「仮想通貨の冬」とは本質的に異なる。最も象徴的だったのが10月10日の急落だ。トランプ大統領による中国製品への100%関税賦課の発表により、わずか24時間で約190億ドルものポジションが清算された。これは仮想通貨史上最大の清算イベントである。
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過去の暴落がICOバブル崩壊(2018年)やTerra/Luna、FTX破綻(2022年)といった業界内部の問題によるものだったのに対し、2025年の下落は株式市場と連動したマクロ経済ショックが主因とされる。
より重要なのは下落幅そのものだ。ビットコインはピークから約30%の下落にとどまっており、少なくとも現時点では、過去に見られた80%前後の暴落とは様相が異なる。
ETFを通じた資金動向の影響も顕在化した。10月以降のビットコインETFからの純流出額は52億ドルに達した一方で、ブラックロックのビットコイン現物ETFの運用資産は1000億ドルに迫る水準まで拡大しており、短期的な流出入が価格変動を増幅させる構造が生まれている。
また、市場関係者の多くは今回の調整を「必要なレバレッジ解消」と捉えており、2018年や2022年のようなシステム崩壊とは見なしていない。
EBC Financial Groupは「専門家たちは、この出来事を完全なシステム崩壊ではなく『必要なレバレッジ解消』と表現している」と指摘している。その一方で、米国のリセッション(景気後退)に伴う株式などリスク資産の下落リスクや、仮想通貨関連企業の業績悪化を懸念する声も上がっている。
このような調整局面にもかかわらず、現時点で下落幅が過去より限定的に留まる背景には、市場を取り巻く環境の歴史的な変化がある。
2025年の市場環境は過去とは決定的に異なる。最大の変化は、仮想通貨業界への規制圧力を強めてきたバイデン前政権と異なり、米国政府の仮想通貨に対するスタンスが180度転換したことだ。
トランプ政権はここ最近、米証券取引委員会は規制緩和論者として知られるポール・アトキンス氏を委員長に指名。同委員会はコインベース、バイナンス、ジェミニ、ロビンフッドといった主要仮想通貨企業に対する訴訟を次々と取り下げ、調査を終了している。
8月にはトランプ大統領が401(k)年金プランへの仮想通貨投資を可能にする大統領令に署名。7月には史上初の連邦ステーブルコイン法制「ジーニアス法」が成立し、米ドルの国際的地位強化の手段として仮想通貨が位置づけられるに至った。
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さらに、ビットコイン現物ETFの承認に続き、ソラナやXRP、ドージコインなど主要アルトコインETFが相次いで上場。機関投資家の参入障壁が大幅に低下した。
実際、年金基金、投資信託、企業財務部門など「腰の重い」投資家層が、ETFを通じてビットコイン市場に本格参入している。
2025年は価格調整の年となったが、同時に規制環境の整備と機関投資家の参入という点で、仮想通貨市場にとって重要な前進の年でもあった。
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このように2025年は、調整局面を経験しながらも、規制面や市場構造の面で大きな進展を遂げた年となった。
ビットコインの過去のサイクルは4年周期で動く傾向があり、半減期から約1年後にピークを迎えるのが過去のパターンだ。2024年4月の半減期に続き、2025年8月にビットコインは約11万ドル、10月には12万6000ドルの最高値を記録した。しかし、この伝統的な4年周期そのものが転換点を迎えている可能性がある。
ビットワイズ(Bitwise)のマット・ホウガン最高投資責任者(CIO)は、従来の4年サイクルでは2026年は下落の年となるはずだが、今回は状況が異なると分析する。過去の下落局面(2018年、2022年)ではFRBが利上げを実施していたが、現在は利下げ局面にある。
また、10月の大規模清算以降、市場全体のレバレッジ水準が縮小している。さらに重要な要因として、2024年にローンチしたビットコイン現物ETFの存在を指摘。2026年は機関投資家による資金流入が加速し、トランプ政権の仮想通貨推進的な規制姿勢も追い風になると予測する。
これらの要因が重なることで、ビットワイズは2026年にビットコインが最高値を更新するとの楽観的な見方を示している。
2026年の市場動向については悲観的な見方も存在する。フィデリティの責任者は2026年のビットコイン底値を6.5万ドル付近と予測するなど、さらなる調整を見込む声もある。
一方で、今回の調整局面を仮想通貨市場が投機的資産から機関投資家が参加する成熟した資産クラスへと移行する過程で生じた成長痛と見る向きもある。短期的な価格変動に惑わされず、規制整備やETF普及といった構造的な変化を見極める視点が求められる。
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