ポケモンカードなどをNFTとして扱う海外サービスで、累計16億ドル超、日本円で約2,500億円に相当する取引が報告されています。紙のカードを保管庫に預け、ブロックチェーン上で売買できる仕組みです。さらに、そのNFTを担保に米ドル連動型ステーブルコインのUSDCを借りるサービスまで登場しました。
ところが、この約2,500億円の多くを動かしているのは、コレクター同士の通常のカード売買ではありません。ランダムにカードが当たるパック商品の購入と買い戻しが、大きな取引量を生み出しています。
30周年を迎えたポケカ
2026年10月20日、ポケモンカードゲームは30周年を迎えました。9月16日には記念拡張パック「30th CELEBRATION」が発売され、10月25日には幕張メッセ、10月31日と11月1日にはインテックス大阪で記念イベントが予定されています。
収集品としてのポケカを象徴するのが、2026年2月に行われた「ピカチュウ イラストレーター」のオークションです。ローガン・ポール氏が所有していたPSA最高評価「10」のカードが1,649万2,000ドルで落札され、ギネス世界記録によるとトレーディングカード全体のオークション最高額となりました。
高額なカードの売買では、真贋と状態を確かめるためにPSAなどの鑑定サービスが使われます。ケースに入ったカードには鑑定番号が付き、同じ絵柄のカードでも個体を区別できます。海外へ輸送するたびに保険や梱包、通関などの手間が発生するため、保管庫を利用した売買にも需要があります。
13万枚超をNFTにしたCollector Crypt
Solana財団が2026年7月31日に公開した記事では、「Collector Crypt」が13万枚超のトレーディングカードをトークン化し、累計16億ドル超の取引量を記録したと紹介されています。ポケカだけでなく、ほかの作品やスポーツのカードも含む事業者全体の数字です。
Collector Cryptは鑑定済みカードを保管し、それぞれに対応するNFTを発行します。NFTにはカードの種類や評価点、鑑定番号などを紐づけられ、別のウォレットへ移せばブロックチェーン上の保有者情報が更新されます。紙のカードはそのたびに発送されません。
サービスの利用規約では、NFTの保有と現物カードに関する権利を結びつける扱いが定められています。現物が欲しい保有者は、NFTを使用できなくする「バーン」を行って発送を申請します。
これはRWA(Real World Assets:現実資産のトークン化)の一例です。カードの画像をNFTとして販売するのではなく、実物のカードとNFTを対応させています。なお、Collector Cryptはポケモン公式とは別の第三者事業者が運営するサービスです。
約2,500億円の中心にある「ランダムパック」
約2,500億円は、Solana財団が紹介した累計16億ドルを2026年10月20日の為替で換算した概算です。取引量は同じ資金が繰り返し使われても積み上がるため、カードの総資産額や取引に投入された資金の純額を表す数字ではありません。
Collector Cryptには、鑑定済みカードがランダムに割り当てられるパック商品があります。開封後に表示されるのは現物カードに対応するNFTで、利用者は保有や発送を選べるほか、条件に応じて運営側への買い戻しも選べます。買い戻して得た資金でもう一度パックを購入すれば、取引量は再び加算されます。
調査会社Four Pillarsが2026年7月10日に公表した分析では、同年6月のパック取引量は2億50万ドル。一方、マーケットプレイスでの二次取引は約160万ドル、177件で、パック取引量の約0.8%でした。二次取引額には運営側の買い注文も一部含まれています。調査チームはCollector Cryptの公開APIを再集計し、運営側に数字の確認を行ったと説明しています。
16億ドルという累計額だけを見ると、カードが次々と新しい持ち主へ売られている印象を受けます。しかし実際に大きな取引量を生んでいるのは、パック購入と買い戻しを繰り返す仕組みでした。カードを保有する人がどれほど増えたのか、通常の売買にどれだけ買い手がいるのかは、ほかのデータも必要になります。
金庫を共有し、売り場は別の会社が作る
現物を動かさず持ち主を変えるだけなら、NFTは必須ではありません。鑑定大手PSAの「PSA Vault」でも、保管庫内で別の利用者へカードを移転でき、売買代金は当事者間で精算する仕組みです。
Collector Cryptが外部サービスと組み合わせられるのは、カードに対応するNFTの情報を別のアプリも参照できるからです。2026年6月には暗号資産ウォレットのSolflareが、Collector Cryptのカード在庫を使う「Solflare Packs」を公開しました。Solana財団によると、公開初週には1,000人超が参加し、1万回以上のパック開封が記録されています。
カードを鑑定して保管する事業者と、販売画面を作る企業が別々でも商売が成り立つ。いったん在庫をNFTに対応させれば、同じカードを扱う窓口を増やせます。そして、その在庫に接続する用途は売買に限られません。
カードを売らずにUSDCを借りる
Solana上の「Jupiter Offerbook」は、NFTなどのオンチェーン資産を担保に、借り手と貸し手が米ドル連動型ステーブルコインUSDCの融資条件を決める仕組みです。Solana財団は、Collector CryptやPhygitalsがトークン化した鑑定済みカードを担保に利用できる事例として紹介しています。
例えば、鑑定済みのポケカを売りたくない保有者が、そのカードのNFTを担保にUSDCを借りる条件を提示します。金額、年率、返済期限に応じる貸し手が見つかれば、NFTをプログラム上でロックして融資が成立します。カードを金庫から出さず、別の人がそのカードを担保として評価するわけです。
Offerbookの公式解説では、融資期間は1〜30日、金利は固定で、担保の市場価格が下がっただけでは途中清算されません。期限が来て未返済なら貸し手は担保の請求が可能になり、請求される前なら借り手は期限後でも返済できます。貸し手が請求を実行するとNFTが移り、借り手は対応するカードに関する権利を失う扱いになります。
買い手が現れなければNFTを売れないのと同じで、貸し手が融資条件に応じなければUSDCも借りられません。カードの希少性や鑑定評価だけで借入額が決まるわけではなく、担保を受け入れる貸し手の判断が必要になります。
取引量が多くても、担保が売れるとは限らない
カードNFTの担保価値を見積もる貸し手にとって、最後に必要なのは、返済がなかった場合にカードを回収して売れることです。NFTを取得しても、現物の保管、本人確認、発送は保管事業者の契約と実務に委ねられます。カードの鑑定や保管状況に問題があれば、取引履歴だけでは回収できません。
加えて、ランダムパックの取引量が大きいことは、担保として受け取ったカードを希望額ですぐ売れることを保証しません。Four Pillarsの2026年6月の数字では、パック取引が約2億50万ドルあった一方、二次流通は約160万ドルでした。融資の貸し手が気にするのは、パックが何度購入されたかより、自分が受け取る特定の一枚にいくらの買い手が付くかです。
ポケカのRWA化によって、カードを売却せずに資金調達する仕組みが生まれました。ここから実際に融資市場が育つには、NFTを保有する人だけでなく、カードを担保として受け入れる貸し手を増やす必要があります。
次に問われるのは、カードの「換金力」
今後、トレカRWAの市場規模を評価するときには、累計取引量だけでは測れない部分が増えていきます。ランダムパックを何度も購入して生まれた取引額と、コレクター同士で現物カードの権利が移転した金額では、市場の性格が大きく変わります。
さらに担保融資が加われば、カードを保有する人は売却以外の方法で資金を得られるようになります。その一方で、貸し手にはカードの真贋や保管状態だけでなく、返済がなかった場合にどれくらいの金額で売却できるかという判断が求められます。
今回のCollector Cryptでは、ランダムパックの取引額に比べて二次流通の規模はまだ小さく、担保融資についても成立した件数や金額を別途確認する必要があります。約2,500億円という累計取引量から、カードの担保としての需要まで読み取ることはできません。
ポケカをNFTにして売るところから、USDCを借りるための担保にするところまで、技術的な仕組みはつながり始めています。しかし、借金のカタとして受け取ったカードを、最後に誰がいくらで買うのか。その買い手の存在こそ、トレカRWAが金融サービスとして広がるうえで欠かせない条件になります。
参考資料
ポケモンカードゲーム30周年公式サイト
ギネス世界記録:トレーディングカードのオークション最高額
Solana Foundation:Inside Solana’s Growing Market for Tokenized Cards and Physical Collectibles(2026年7月31日)
Four Pillars:Collector Crypt Has One Question Left(2026年7月10日)
https://research.4pillars.io/en/research/collcector-crypt-has-one-question-left
PSA:Frequently Asked Questions(Vault-to-Vault Transfers)
Collector Crypt:Depositing Cards
Collector Crypt:Withdrawing Cards
Collector Crypt:Terms of Service
Jupiter Academy:Borrow Against Anything Onchain with Jupiter Offerbook
本記事は公開情報をもとに暗号資産・ブロックチェーン関連技術の活用事例を紹介する一般的な情報提供であり、特定の暗号資産、NFTまたは金融サービスの利用・売買を推奨するものではありません。
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