2026年10月7日、カルダノに「凍結できるトークン」を発行する仕組みが登場しました。Cardano Foundationがメインネットでの利用開始を発表した新規格「CIP-0113」です。この規格のトークンを活用すると、本人確認を終えた人だけに送金を認めたり、特定の資産を凍結したりできるようになります。
暗号資産といえば、基本的には秘密鍵を持っている本人のみが資産を動かせるのが特徴の一つです。ところが今回の仕組みでは、本人が署名しても送れない場合があり、逆に本人の同意なしに移転できる機能まで用意されています。
翌8日には、財団から独立した企業Veridianの株式が、この規格を使ってトークン化されました。報道によれば、その数は100万株。株式を扱うために、なぜ持ち主以外の操作権限が必要になるのでしょうか。
ADAが凍結されるようになったわけではない
今回の変更は、カルダノの基軸通貨ADAを対象にしたものではありません。CIP-0113は、新たに発行するトークンへ送金条件などを組み込むための規格です。
カルダノでは以前から独自トークンを発行できましたが、従来の一般的なネイティブトークンには、送金のたびに受取人の資格を確認するような仕組みが標準ではありませんでした。CIP-0113では、資産を移転するときにスマートコントラクトが条件を判定します。例えば、本人確認済みの投資家だけが保有できる株式なら、資格を満たさないウォレットへの移転を成立させない設計にすることもできます。
発行者は規格に対応した機能を選び、独自の条件も組み込めます。カルダノ財団によれば、チェーン自体の仕様変更を伴うハードフォークは必要なく、発行した資産はカルダノのネイティブ資産として扱われます。
凍結機能そのものは新しい発明ではありません。USDCやEthereumの証券向け規格ERC-3643にも管理機能があります。今回の特徴は、カルダノのネイティブ資産にこうした移転ルールを組み込めるようになったことです。
「送れない」と「勝手に動かせる」は別の権限
CIP-0113の仕様書では、持ち主による通常の送金と、第三者が行う操作を分けて設計しています。
前者は、送金を受け付けるかどうかを決める仕組みです。例えば、認められた投資家同士の取引だけを通す、制裁対象のアドレスへの送金を拒むといった使い方ができます。正しい秘密鍵で署名していても、送金条件に合わなければ資産は移動しません。
後者は、保有者の同意を得ずに操作するための仕組みです。仕様書では「ThirdPartyAct」と呼ばれ、差し押さえや強制移転などを実装できます。法的な命令に伴う移転などを想定できます。
ただし、CIP-0113に対応したトークンが、すべて同じ管理機能を持つわけではありません。凍結や強制移転を認めるか、認める場合に誰が実行できるかは、トークンごとの設計によって決まります。
例えば、管理者1人の承認で凍結できる設計もあれば、複数人の承認が必要な設計でも構築することが可能です。同じ「CIP-0113対応トークン」でも、誰がどのような条件で資産を止められるのかについても、それぞれの設計によって変わってきます。
Veridianの株式で使われた理由
10月8日、Cardano FoundationはデジタルID事業を独立させ、Veridianを設立し同社の株式をCIP-0113でトークン化したことを発表しています。財団によれば、スイスのDLT関連法制度に基づく株式として扱われる、同規格の最初の導入事例です。
CoinDeskによればトークン化されたのは100万株で、一般投資家への販売は行われていません。自由に売買できる株式市場が開設されたというより、法的な権利を持つ株式に、新しい移転の仕組みを適用した事例となります。
株式をトークン化する際には、法律上の株主の権利とブロックチェーン上のトークンを結びつける手続きが必要です。また、株式によっては保有できる人に制限があるため、送金先が条件を満たしているか確認する仕組みも求められます。
スイスの金融・技術業界団体CMTAは10月7日、CIP-0113を使った株式向けスマートコントラクトについて、同団体の証券トークン規格「CMTAT」と同等の必須機能を備えていると認めました。評価の条件には、株式の取扱いに関する規約をブロックチェーン上で参照できることや、株数を整数単位で扱えることなどが含まれています。
CIP-0113では、例えば保有資格を満たす相手にだけトークンの送金を認めるといった設定ができます。株式の譲渡に必要な条件を、実際の送金処理にも反映できるようになったのです。
管理者は発行者だけとは限らない
仕様書をさらに読むと、トークンごとの凍結権限とは別に、共通の仕組みを更新する権限も定義されています。
CIP-0113は、複数のトークンが利用する共通の検証機構と、各トークン固有のルールを組み合わせた設計です。共通機構の一部は、トークンを再発行せずに更新でき、その変更は同じ導入環境で動く複数のトークンに影響します。
誰に更新権限を与えるかについて、仕様書は単独の鍵、複数署名、ガバナンスによる承認などの方式を認めています。どの方式を採用するかは導入側が決め、文書化する仕組みです。トークンの発行者が持つ操作権限だけを調べても、共通機構を変更できる主体まで分かるとは限りません。
例えば、トークンごとの凍結操作に複数人の承認が必要でも、共通機構の更新に関する権限設計は別に確認する必要があります。更新が可能であること自体は、規制変更や不具合修正に対応できる利点です。ただ、その権限が失われたり不正に使われたりしたときの影響範囲も、運用側が引き受けることになります。
担保に預けたトークンが凍結されたら
こうした権限は、トークンを直接持つ人だけの問題でもありません。DeFi(ブロックチェーン上の金融サービス)がトークン化資産を担保として受け取る場面を考えると、もう一段複雑になります。
例えば、ある利用者が株式トークンを担保に資金を借りたとします。価格が下がって担保を売却する必要が生じても、その時点でトークンの移転が停止されていれば、予定どおりに清算できない場合があります。強制移転を認める設計なら、保有者や担保管理者の同意なしに資産が動く条件も確認が必要です。
CIP-0113の仕様書でも、融資プロトコルが担保として受け入れる前に、第三者が保有者の同意なしに資産を動かせるかを確認するよう求めています。規格への対応だけでは担保としての扱いやすさは決まりません。価格、流動性に加えて、発行時に設けられた管理権限が融資や清算の条件に影響します。
秘密鍵の先にある、もう一つの確認項目
これまで暗号資産の保管では、秘密鍵を誰が管理するかが中心的な論点でした。CIP-0113を使うトークンでは、それに加えて、誰が凍結や強制移転を実行できるのか、誰が共通機構を更新できるのかという権限まで確認する必要があります。
同じウォレットにADAと株式トークンが並んでいても、その保有者が持つ操作権限は同じとは限りません。さらに同じCIP-0113対応の株式トークンでも、管理者を単独の鍵で運用するか、複数署名で運用するかによってリスクが変わります。
次にトークン化株式や規制対応型ステーブルコインを見るときは、発行チェーンや準備資産だけでなく、凍結・強制移転・ルール変更の権限を誰が持つかも見ておきたいところです。秘密鍵を守っているだけでは、資産に設定されたすべての条件を把握できないからです。
参考資料
Cardano Foundation|CIP-0113メインネット対応(2026年10月7日)
https://cardanofoundation.org/blog/programmable-tokens-cardano-mainnet
Cardano Foundation|Veridian独立・株式トークン化(2026年10月8日)
https://cardanofoundation.org/blog/veridian-spinout
Cardano|CIP-0113技術仕様
https://cips.cardano.org/cip/CIP-0113
CMTA|CIP-0113を利用した株式向けスマートコントラクトの同等性認定(2026年10月7日)
https://cmta.ch/news-articles/cardano-s-cip-0113-programmable-asset-tokens-recognized-as-equivalent-to-the-cmtat-under-the-cmta-certification-scheme
CoinDesk|Veridian株式のトークン化に関する報道(2026年10月8日)
https://www.coindesk.com/business/2026/10/08/cardano-foundation-spins-out-veridian-tokenizes-its-shares-on-new-standard
ERC-3643|Tokens Interface
https://docs.erc3643.org/erc-3643/smart-contracts-library/permissioned-tokens/tokens-interface
Circle|USDC Terms
https://www.circle.com/legal/usdc-terms
Midnight|公式技術資料
https://docs.midnight.network/what-is-midnight
本記事は、公開情報をもとに暗号資産・ブロックチェーン関連ニュースを解説した一般的な情報提供であり、特定の暗号資産の売買を推奨するものではありません。
