イーサリアム共同創設者のヴィタリック・ブテリン氏は9日、X上で新たな改善提案「EIP-8288(再帰STARKメンプール)」を紹介した。同氏は、大型アップグレード「Hegota(ヘゴタ)」の次に予定される「I-star」への採用を希望しており、この提案によって量子耐性を備えた署名やプライバシープロトコルのコストを大幅に削減できるとしている。
量子耐性のある署名や証明はデータサイズが大きいため、その分ガス代も高額になる。ブテリン氏によると、耐量子署名データは約3KBに及ぶという。コスト面では、現状のプライベートトランザクションは極限まで設計を最適化した場合でも約30万ガスを消費。さらに耐量子暗号を組み込んだ場合、そのコストは約1,000万ガスにまで膨れ上がる。
EIP-8288の核心は、各トランザクションが個別に行う大容量の暗号署名や証明を、直接オンチェーンで処理・記録する必要をなくす点にある。同氏によると、EIP-8288を採用することで、これらのコストを「数万ガス程度」まで引き下げられる可能性がある。実現すれば、99%を超える削減率となる。
新提案では、各トランザクションが暗号署名やSTARK証明を「依存関係(Dependencies)」として定義する仕組みを採用する。イーサリアム( ETH )のメンプール上でこれらの依存関係を事前に検証し、再帰STARKによって複数の証明を一つに集約した上で、ブロックビルダーが多数のトランザクションを代表する単一の証明をブロックに組み込む。
最終的にオンチェーンに記録されるデータは、1ブロックあたり1つのSTARK証明(100〜300KB程度)と、証明対象となる各ステートメントにつき96バイト程度の軽量なデータのみになるという。
ブテリン氏はこれを「The Proof Singularity(証明の特異点)」と呼び、必要な技術的要素はすでに揃っているとして、実装は十分可能だと強調した。
ブテリン氏は、EIP-8288におけるコスト削減以外のメリットにも言及している。
その一つが、EVM(イーサリアム仮想マシン)の仕様を変更することなく、多様な暗号方式を自由に採用できる点だ。Falcon、ML-DSA、格子暗号、コードベース、isogenyなどの、新しい暗号方式であっても、クライアント側でSTARKに包むだけで利用可能になるとしている。
もう一つは、プライバシー性能を高めたアカウント抽象化だ。アカウントのロジック自体を非公開に保ちながら、1回のトランザクションで関連するすべてのオンチェーン資産(アカウント、DeFiポジション、プライバシープロトコルのノートなど)の所有権をまとめて変更できる。どの資産を変更したかについても非公開のまま処理できるという。
一方、再帰STARKで取引を処理するには、「標準言語(ISA)」を定める必要がある。ブテリン氏は現在の有力候補として「RISC-V」を挙げた。これを採用することは、実質的にイーサリアムがRISC-Vを正式な命令セットとして取り込むことを意味する。同氏は「これは大きな決断であり、慎重に進める必要がある」としながらも、イーサリアムがさらに前進するためには必要なステップであるとの見解を示した。
EIP-8288は、今年6月にブテリン氏とトーマス・コラトガー氏によって提案された。現在はコミュニティによる議論が続くドラフト(草案)の段階にあるが、正式採用されれば、イーサリアムの暗号処理やプライバシー機能の設計を大きく変える可能性がある。

