米金融大手シティ(Citi)のシンクタンク部門シティ・インスティテュート(Citi Institute)は6月、「Tokenization 2030:Wall Street On-Chain」と題するレポートを公表した。金融資産のトークン化とは、株式や債券などの有価証券をブロックチェーン上のデジタルトークンとして表現する仕組みを指す。スマートコントラクトによって取引・決済・担保管理などを自動化できる点が特徴で、現在は試験段階から実運用への移行期にある。
同レポートによると、2026年4月時点のグローバルなトークン化資産市場規模はDeFiLlamaのデータに基づき約170億ドルと推計され、1年前と比べて約3倍に拡大した。
シティ・インスティテュートはこの市場が2030年にベースケースで5.5兆ドルに達すると試算しており、強気シナリオでは8.2兆ドル、弱気シナリオでは2.7兆ドルとしている。
成長の主役は民間市場ではなく、米国株式や米国債を中心とする公開市場証券になるとレポートは指摘している。
レポートが普及加速の主因として挙げるのが、金融市場インフラを担う既存大手の本格参入だ。米決済清算機関のDTCC(預託信託清算会社)は2025年末に規制当局の承認を取得し、同社が管理する資産を対象としたトークン化サービスの3年間パイロットを2026年後半に開始する予定としている。
対象は株式やETF、米国債など流動性の高い商品で、既存の法的所有権や投資家保護の枠組みを維持した形でデジタル表現を可能にする。
ニューヨーク証券取引所(NYSE)は規制当局の承認を前提に2026年後半までにトークン化証券プラットフォームの開設を計画しており、米国上場株式やETFの24時間365日取引とステーブルコインによる資金決済の実現を目指している。
ナスダック(Nasdaq)は米SECの承認を受け、一部の株式・ETFをトークン化した形で発行・取引・決済できる体制を整備済みだ。同レポートはこれらを「暗号資産ネイティブ企業による推進ではなく、最古参かつ最大手の金融機関が新たなインフラを採用した例」と位置づけている。
シティ・インスティテュートは、トークン化の本格普及にはオンチェーン上の決済資産の存在が不可欠だと強調する。
同社は別レポートでステーブルコインの流通総額が2030年にベースケースで1.9兆ドルに達すると試算しており、大手銀行が開発を進めるトークン化預金と合わせて、証券取引における「デリバリー・バーサス・ペイメント(DvP)」決済の基盤になるとみている。
規制面では米国でクラリティー法(Clarity Act)が上院での採決に向けて審議中であるほか、欧州のMiCA規制や英国金融行動監視機構(FCA)による政策声明など、各国での整備も進んでいる。ただし規制の地域間格差が残存しており、市場の断片化やコスト増につながるリスクもあるとレポートは指摘している。
なお同レポートは、短期的にはトークン化システムと既存レガシーシステムが並存する「ハイブリッドモデル」が主流になるとも分析している。移行期には効率化のメリットが実現する前に運用上の複雑性が増す可能性があり、プラットフォーム間の相互運用性や共通標準の確立が規模拡大の前提条件になるとしている。


